改正民法(債権法分野)の施行まで2カ月

ビジネスの準備は万全ですか?

熊谷 則一(弁護士)

債権法分野の民法が2017年に改正され、いよいよ今年4月1日より施行されます。今回の改正によってビジネスに影響を受ける方も少なくありません。施行まで2カ月となったのを機に、あらためて注意しておくべき点について、ベストセラー『3時間でわかる! 図解 民法改正』の著者である熊谷則一弁護士に寄稿していただきました。


 2017年(平成29年)6月2日に公布された「民法の一部を改正する法律」が、3年弱の移行期間を経て、いよいよ2020年(令和2年)4月1日から施行されます。「民法の一部」ではあっても、今回の法改正は、民法の債権法分野全体に及び、改正内容も200項目に及ぶ大規模なものです。ビジネスの場面でも、生活の取引の場面でも、大きな影響があると考えられますが、皆様は、既に対策済みでしょうか。

 ビジネスの場面でも、生活の取引の場面でも、法律を意識することはほとんどありません。順調な状態である場合には、そもそも法律を意識する必要はなく、それはそれで健全であるといえます。しかし、ひとたび紛争が発生した場合には、その解決の指針となるのは法律です。民法は、取引や所有関係、親族や相続を含めた私たちの生活全般に関わる様々な場面についての基本的なルールを定めた法律です。この基本的な法律の中の債権に関わる大改正がいよいよ施行されるのですから、ビジネスに関わっている者が「知らない」というわけにはいきません。

例えばこんな改正がされています。

 今回の民法改正の対象は様々です。ここでは、ほんの一例として、消滅時効を見てみます。

 例えば、債権者が債務者に対して100万円の支払請求権を持っていても、何ら請求せずに一定の期間が経過してしまうと、債務者は消滅時効を主張することができ、債権者は支払請求権を行使することができなくなります。この消滅時効、現在は、「債権者が権利を行使することができる時」という客観的起算点から、10年が経過することが要件になっています。改正民法のもとでは、この客観的起算点から10年が経過する場合に加え、「債権者が権利を行使することができることを知った時」という主観的起算点から5年が経過した場合も、消滅時効が成立することになります。債権者が改正前の民法しか認識しておらず、「まだ消滅時効ではない。」と考えていると、主観的起算点から5年が経過して、権利を行使できなくなってしまう、ということが改正後には発生するかも知れません。

 このほかにも、消滅時効の関係では、現在の民法では、職業ごとに短期の消滅時効が定められていて、例えば、飲食店での飲食代金は、1年で消滅時効が成立します。このような短期の消滅時効に合理性はないので、改正後は、職業ごとの短期の消滅時効の規定はなくなり、すべて客観的起算点から10年と主観的起算点から5年とで消滅時効が成立するというルールに統一されます。1年間「飲み代のつけ」の請求がないからと言って、もう、合法的に逃れることはできないということです(笑)。

 また、現在の民法では、「時効の中断」によって消滅時効の発生を防ぐことができるとされているのですが、「時効の中断」という表現で、時効の進行が一時的にストップする場合と時効の期間が振り出しに戻る場合とがあり、分かりにくい表現となっています。これが改正民法では、前者を「時効の完成猶予」、後者を「時効の更新」と表現して書き分け、民法を読んだ人が理解しやすいような改正を行っています。

民法改正の内容を理解しましょう。

 前述のとおり、民法は私たちの生活全般に関わる様々な場面についての基本的なルールを定めている法律です。そして、1896年(明治29年)に制定されてから、戦後に親族・相続の分野で改正がなされたものの、契約を中心とした債権法分野では、大きな改正がないまま今日に至っています。しかし、民法制定当時と今日では、意思疎通の方法も産業構造も大きく変わり、明治時代に制定された取引のルールでは時代に適合していない部分もあります。また、積み重なった判例により、民法の条文を読んだだけではわからないルールもあり、分かりやすい条文にすることも必要です。今回の民法改正は、社会・経済の変化への対応を図り、国民一般にわかりやすいものとする等の観点から改正がなされました。

 今回の民法改正のうち、従来のルールを変更する改正については、私たちの生活やビジネスに大きな影響があります。ビジネスパーソンには、まずは、変わったルールを大まかに把握することが求められます。『3時間でわかる! 図解 民法改正』は、そんなビジネスパーソンの皆さんのニーズに応え得る一冊であるといえます。民法改正の施行に、万全の体制で臨んでください。


熊谷 則一(くまがい のりかず)
弁護士
1964年生まれ。88年東京大学法学部卒業。同年建設省(現国土交通省)入省。94年弁護士登録(第二東京弁護士会)、濱田法律事務所勤務。2003年同事務所パートナー。2007年涼風法律事務所設立。

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