思い切りAIを使い倒せ!

『AIに勝つ! 強いアタマの作り方・使い方』著者インタビュー

野村直之:メタデータ代表取締役社長、東京大学大学院医学系研究科研究員

 30年以上にわたり、人工知能(AI)の研究に携わり、現在も日々、AI関連の研究・技術開発を続け、内外のAI事情に通じた、通称「ドクター・ノムラン」こと、メタデータ株式会社代表取締役社長で東京大学大学院医学系研究科研究員を務められる野村直之さん。

 ロングセラーとなった『人工知能が変える仕事の未来』では、AIの実態、AIにできること、産業、ビジネス、仕事へのインパクトを、最新の知見に「温故知新」の視点を加えつつ、掘り下げて展望。現在の先端の技術をもとに、現実的な未来を見通されました。

 今回の新刊『AIに勝つ! 強いアタマの作り方・使い方』では、AI時代には、読解力よりも身につけなければならない大事なものがあり、仕事のやり方、学び方が一変するなかで生き抜くための方法を書かれています。そのなかでとくに伝えたかったことなどについて、お話をうかがいました。

「AIに仕事が奪われるかも」……そんな議論はもうやめよう!

 2013年にオックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン准教授とカール・B・フレイ准教授が発表した論文によって、「AIの普及によって奪われる職業が続出する」ということが一般によく言われるようになりました。しかし私は「そんなことはありません」と言いたいですね。巷でよく言われている「AIによって士業の存在が危うい」ということも、私は無いと思っています。

 たとえば、今回の新刊でも書いたように、弁護士などの存在は絶対に無くなりません。AI裁判官のほうがまだ可能性がありますが、早くて来世紀以降でしょう。AIが「意識を持って人間のように成長し、痛みを伴って相手を理解する」というレベルまで発達しない限りは、裁判官も弁護士も、これからの時代、ずっとずっと必要なのです。そのレベルにまでAIが発達するのは、私の予測では2080年から2280年の間です。そんな先のことを考えて、今の時点で「ああ、どうすればいいんだ」などと恐れているなんて、無駄だと思いませんか?

 観測可能な宇宙の原子の数はすでに数え終えられています。銀河系には約2000億個の恒星があり、観測可能な宇宙にはそのような銀河が800億個以上あります。こうして掛け算していくと、原子の数は約1080個 (ゼロを80個付けた数)です。そのようなことから「自分が将来つくる方程式を使えば、目の前の相手が今これから何ミリまぶたを動かすかどうかも事前に計算し予測可能だ」なんてことを言う科学信者もいるかもしれません。それは「ゼロが何百個並んだくらいの桁のうちの一つの可能性で当たる」かもしれませんが、ゼロではないから、全否定はできない。しかし、その可能性を想定して行動したり、ましてや、事業計画を立てたりする意味はまったくありません。

 「太陽系に他の高等生物が存在する!」と言われれば、それは「“ゼロが何十個分の一”の確率で正しい」かもしれない。でも、それは現実的対応を考える局面ではゼロに等しいと考えるべきです。そこを議論してもあまり意味はないだろう、と思っているのです。

 はっきり言います。これからの時代、世の中に“人の仕事”はもっと増えます! 「仕事が無くなって大変なんじゃないか」という議論をする意味はありません。だから私はもうそういう話はそろそろ終わりにしたい(笑)。

「意識を持ったAI vs 人類」というバカバカしさ?

 なぜAIの普及で仕事が増えるか? 少子高齢化で、日本人の労働者数が激減することはもう確定しているわけです。そんななかで、AIの進化によって、新しい仕事、新しいサービスが続々と生まれてきます。

 伝統的に、サービス業というのは、極端に言ってしまえば、すさまじく生産性の低い“労働集約型”の仕事です。製造業のように無人の工場で機械が自動的にどんどんモノを作る……という仕事ではありませんよね。生産性が低くて、しかもサービスの種類は多種多彩。アイデア次第でいろいろなサービスがビジネスとして考えられます。世の中に仕事は増えるのです。サービスのためには、AIを使って個々の局面で取れるさまざまなデータを集めなければなりません。だから実際には、多種多彩なサービス一つひとつのための、それ専用のAI、何百万というAIが必要なのです。

 ところが「“AI”という一つの存在がある」という誤解が広まっている。間違った情報から、メディアが面白がってAIを擬人化して「AI vs 人類」なんていうとんでもない図式をつくってしまったのです。「AIが意識を持つ?」「意識を持ったAIが人間を支配する?」……いやいや、「意識とは何か」がわかっていない段階なのに“意識を持った機械”なんて作れるわけがないじゃないですか(笑) 研究開発担当の人間が何もしていないのに、「勝手にコンピュータプログラムの中に意識が芽生えるのでは?」「AIが自らを進化させ始めるのでは?」と主張するAI研究者もいますが、そのような思い込みには根拠がなく、到底、科学技術とはいえないでしょう。現実を直視しなければ死(倒産)が待っている企業経営者なら、なおさら注意が必要です。

 かつて世界には、「ばい菌というのは勝手に発生する。無から出てくる」という説が主流だった時代があったわけです。ルイ・パスツールによって19世紀に否定された説ですね。AIが意識を持つ? 私にしてみればそれと同じレベルの話です。少なくとも現時点では。ですので、メディア、とくにTV関係の方々には、既にAIが意識をもって自発的に仕事をしているかのような誤解を与える「AIが自ら学んで」という言い方をするのは、厳に慎んで欲しいと思います。「(何も考えずに)機械的に、自動的に(正解データから)特徴を抽出」と言い換えれば、正確に現在のAIを描写しているのでOKです。ただ、対象によっては、正解データを自動作成する仕組みが何種類かできてきているので、強力な道具としてのAIを決して侮ってはいけません。

アクセル全開でAIを使いこなせ! 今すぐAI持ってこい!

 たとえば「この道の先にタクシーが来ているということがスマホでわかる」というサービスがありますよね。このサービスのためにすべての街の交差点にアルバイトを立たせて人間の目で見て調査をさせていたら、とんでもない経費がかかるわけです。とてもできるわけがない、と。しかし、それがAI、IoTとさまざまなネットワークを使ったらできてしまった。「そういうこと、できるんだ」いうことが知られてしまったら、他の業種も取り入れようと思うわけです。

 サービス産業の向上ぶりはとてつもないものがあります。ICT(情報通信技術)の高度化により、サービスの輸出入も可能になりました。5Gによりこの流れは加速することでしょう。だから、日本のサービス産業の生産性もどんどん上げていかなくてはならない。日本の生産年齢人口の減少は、今から有効な少子化対策を講じても、その新生児達が成人するまで向こう20年間は深刻化するばかりです。そのなかで、今の何倍ものサービス水準で、かつ津々浦々の人々がサービスの恩恵を受けられるようにコストダウンしなければ、国際競争にも勝てないんです。ですから、もう、日本はAIをアクセル全開で導入するしかないのです。

 新刊でも少し触れましたが、病理医療の世界でもAIの更なる普及が求められています。病理画像というのは、9億画素から36億画素あります。数センチ角のスライスのなかに3000個もの悪性腫瘍かもしれない細胞が写ります。そしてそれを一個一個、人間がチェックしているのが現状です。しかも病理医は今、大変な人手不足なのです。病理医に関していえば、今の3倍は必要。これからますます大変になってくるでしょう。こうした作業をAIに任せなければならないのです。

 がん細胞を見逃してしまい、慚愧の涙を流しながら眠れない夜を過ごす……そんな病理医が私の知り合いにもいます。彼らのためにも。もちろん患者さんのためにも、AIは早急に必要なのです。若い経験不足の医師が熟練医師の知識をキャプチャーしたAIを道具として使いこなせば、医療の質が平均的に向上します。また、AIにより診断や治療の生産性(スピード)が上がりコストが下がれば、今まで医療の恩恵に浴すことができなかった人々が、より適切な診療を受けることができ、予後のモニタリングなども充実していくことになります。

 また、たとえば新薬の開発には論文を何百万ページも読まなければなりません。これもAIに任せられることでしょう。だったら「1日でも、1時間でも早くAI持って来い!」っていう感じですよね。

AIは100%“道具”。嫉妬する必要などない

 AIに脅威を感じる……それはたとえば電子顕微鏡では肉眼よりも小さなモノが見えるからといって脅威を感じる……「俺の仕事が顕微鏡に奪われるんじゃないか」などと考えることと同じです。電子顕微鏡ってわりと壊れやすくて、保守や調整、修理に手がかかるのです。それをする人が必要になってくる。AIも同様です。

 新しい道具が一つできたら、数種類の仕事ができる。馬の時代から車の時代になって、どれだけの職業が生まれたでしょう。そろばんが便利な道具だからといって、そろばんに嫉妬した人っているでしょうか? そろばんが、電卓に、PC上の表計算や、スマホ上の電卓アプリにとって代わられ、人々が気軽に計算する回数は激増しました。しかし、そろばん産業縮小で大失業が起きたとは聞きません。新しく生まれた多種類の仕事に人材はシフトしています。考えれば当たり前のことなのです。さきほどお話ししたように、AIは一つのものではない。何百万種類の新しいAI内蔵の道具がこれから作られ、それぞれを活用した複数、多数の新しい仕事が生まれるのです。

 新刊では、これからAIの進化によってどんな新しい仕事を生まれるのか? 人間が人間ならではの能力をどう発揮して働いていくのか?について書かせていただきました。今ある個々の職業、業種業態別の“AIとの関わり方”を一つひとつ解説するとなれば、膨大な時間とデータが必要となります。とても本1冊や2冊では間に合いません。それでも、Webプラットフォーム「note」などを通じて、それにもチャレンジしたいとは思っていますが……。

 私の大きな主張は、「100%、AIは便利な道具に過ぎない」「だから誤解しないで、恐れないで、使い倒そう」というものです。AIを恐れる必要はない。それよりも、AIによって生み出される新たな仕事、新たな楽しみに思いを馳せたいものです。

 確かに、現状放置には不安もあります。GAFA、BATと呼ばれる、超国家級のIT巨人たちによる独占、ニュー・モノポリーは、ビジネスモデル、経済構造による競合の廃業をもたらし得ます。しかし、いくら彼らがAIを駆使して低コストの(≒雇用を生まない)サービスを実現しているとはいっても、AIが人間に成り代わって働くことで、人間の雇用を奪っているわけではありません。政治、税制、経済格差の課題や人権、プライバシーの問題を解決して人々を幸福にするために、複雑な現象を解きほぐし、個別の処方箋を作る……これにもAIが必要となるでしょう。

 『AIに勝つ! 強いアタマの作り方・使い方』のコンセプトは、「敵を知り己を知れば百戦殆うからず」です。AIは決して敵ではないので(邪悪な【人間の意思】をコピー、反映したAIを除く)、ここでいう「敵」とは向き合う相手、くらいの意味です。この孫子の兵法の言葉の通り、AIの専門家であり且つビジネスに精通していなければ、AI時代の個々人に向けて処方箋は描けないだろうと考え、本書を著しました。巷に溢れる悲観論に負けずに、AI時代にこそ人々が楽しくクリエイティブに働いて幸福となるビジョンを描きたい。そして、そのビジョンを読者の皆さまと共に実現していければ、何より素晴らしいと考えています。

(構成 中西 謡)



野村 直之(のむら なおゆき)
メタデータ株式会社代表取締役社長、東京大学大学院医学系研究科研究員
1962年生まれ。1984年東京大学工学部卒業、2002年理学博士号取得(九州大学)。NEC C&C研究所、ジャストシステム、法政大学、リコー勤務をへて、法政大学大学院客員教授。2005年、メタデータ株式会社を創業。ビッグデータ分析、ソーシャル活用、自然言語処理応用の人工知能API群を提供。日々、さまざまなソフトウェア開発に従事するとともに、AIを産業、生活、行政、教育など、幅広く社会に応用する問題に深い関心を持つ。
主な著作:WordNet: An Electronic Lexical Database, edited by Christiane D. Fellbaum, MIT Press, 1998.(共著)。『人工知能が変える仕事の未来』(日本経済新聞出版社、2016年)、『実践フェーズに突入 最強のAI活用術』(日経BP社、2017年)。
このほか情報処理やAIの応用などに関する雑誌などへの寄稿も多数あり、講演活動も数多くこなす。

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