深刻な人手不足。介護職員の離職を防止するには?

介護職員のやりがいを引き出すサポート体制のつくり方

蜂谷 英津子 (HOTシステム株式会社 代表取締役)

 介護職に対する世間のイメージは、「大変な仕事」「低賃金」「離職率も高い」といったマイナスのものが多いようです。しかし実際はどうなのでしょうか? また、今、介護サービスの現場が抱えているさまざまな問題とその解決策、トラブル対応の際に大切なポイント、そして介護職のやりがいとはどういったものなのでしょうか?

 新刊DVD『こころをつかむ 介護職員研修シリーズ』(全3巻)の監修者であり、介護職員の人材育成のためのコンサルティング等、介護分野で幅広い活動を行われているHOTシステム株式会社 代表取締役の蜂谷英津子さんにお話をうかがいました。

■「人材不足」をいかに解決するか?

蜂谷 英津子 HOTシステム株式会社 代表取締役

──今、介護サービスで一番大きな問題とは何でしょうか?

 それは何といっても介護現場で働く人が足りないという点だと思います。
 人手不足の問題は、介護現場のみでなく日本全体の問題でもありますが、介護現場では、他の職種に比べて若い職員の採用が難しくなっているということが顕著に表れています。

 その理由は2つあります。1つは、介護の仕事が「他の職業と比べて賃金が低い」と思われていること。もう1つは、介護の仕事は「重労働だ」というイメージを持っている人が多いからでしょう。

 しかし、1つ目の賃金については、実は国の指導で年々改善されています。厚生労働省の「平成30年度介護従事者処遇状況等調査結果」によれば、平成30年9月の「介護職員処遇改善加算を取得(届出)している事業所における介護職員(月給・常勤の人)で平均勤続年数7.6年の人」の月の平均賃金は、300,970円となっています。他の業種と比較して介護職員の賃金が著しく低いとは思いません。

 また、2つ目の介護の仕事のイメージについては、確かに介護の仕事は利用者の排泄や入浴の介助等、大変な作業も少なくありません。ただこの仕事は、利用者やその家族から「ありがとう」と感謝された時、仕事を通じて社会の役に立っているという実感、自分の価値を前向きに受け入れる自己肯定感が持てる仕事でもあります。

 つまり介護の仕事は、悪いイメージが先行しているように思うのです。実際には、賃金もそれほど低いものではなく、自分の存在が社会にとって重要なのだということを自覚できる、とても魅力的な仕事といえるのです。今後は、そうしたポジティブな面をアピールしていくことが必要でしょう。

──人手不足問題の解決方法としては、何が考えられますか?

 まずは、多くの年代の方が働ける職場環境を整えることが重要です。たとえば、子育てをしている主婦の方が働きやすいように、事業所内に保育園を設置したり、曜日や時間を自分の都合で選べるような勤務体制を作ったり、といった取り組みです。

 また、定年退職をされた60代の方が再就職しやすい受け入れ体制を作ることも必要です。
 そして、介護業界が人手不足問題解決の“切り札”として期待しているのが、海外からの外国人技能実習生の受け入れです。ただ、言葉や文化の違いなどもあり、乗り越えなければならないハードルも高いと思いますが。

■2000年を境に様変わりした日本の介護

──今の介護現場における利用者へのサービスには、何か特徴はありますか?

 「公的介護保険制度」がスタートした2000年に、日本の介護は大きく変わりました。2000年以前に介護サービスが無かったわけではありませんが、それまでは、一人暮らしや家族が介護をすることが困難な高齢者に対しては、行政が判断して、利用する介護サービスを決めていました。行政の措置によって、行政が指示した介護サービスの提供を受けたり、行政が運営する介護施設に入居したりするというものでした。

 言ってみれば「行政のほどこし」というイメージが強く、このことから、現在の80代、90代の高齢者の中には、介護サービスを受けたり介護施設に入居したりすることを好まない方がいます。また、親を介護施設に入居させることを“恥ずかしい”と感じている家族の方も、少なくありません。このことが、介護者が「一人で抱え込んでしまう」原因の1つにもなっています。

 2000年の「公的介護保険制度」の開始により、介護サービスを利用する高齢者は、長年介護保険料を納め、介護が必要になった場合は、一定額の報酬を支払って、サービスを利用する「お客様」になったのです。また、2000年から民間の企業が介護ビジネスに参入することができるようになりました。介護を必要とする方やその家族が、介護サービスを提供する業者や入居する施設を選べるようにもなったのです。このような介護の環境変化により、現在は10年前よりも一層、利用者の「お客様」としての意識が高まっていると感じています。

 また、公的な施設だけでなく、民間企業が運営する高齢者施設も数多く建てられています。特に民間企業が運営する高齢者施設では、利用者や家族に満足していただくために、独自のサービスを提供する工夫をしているところが多くあります。たとえば、夕食のメニューの主菜を肉料理と魚料理から選ぶことができたり、無料でアロマや癒しのマッサージを受けられたりする施設もあります。

──まさに「サービス業」ですね。

 介護を必要とする高齢者が年々増え続けることで、利用者のニーズも多様化しています。介護の仕事は対人援助の専門職ですので、介護技術だけでなく、利用者が介護サービスの提供を受けることで、“楽しい”と感じることができる環境を整えたり、利用者や家族を不快にさせない介護サービスを提供したり、ニーズに応えることが重要です。

 そのため、介護職員には、社会人としてふさわしいマナーやコミュニケーション能力、ホスピタリティマインドを身につけることが求められています。

■3年未満の離職率を下げよう

──よく「介護職は離職者が多い」と聞きますが、実際はどうなのでしょう?

 公益財団法人介護労働安定センターによる平成30年度「介護労働実態調査」の結果では、訪問介護員、介護職員の1年間(平成29年10月1日から平成30年9月30日まで)の離職率は15.4%でした。ところが、入所から1年未満の職員の離職率は約38.0%、1年以上3年未満の離職率は26.2%となっています。つまり、3年未満の職員の離職率は全体の離職率の4倍以上ということになります。事業所の離職率を下げるためには、入所から3年未満の職員の離職率を下げることが重要です。

 また、介護の仕事をやめた理由については、第1位が「職場での人間関係に問題があった」とあるように、一緒に働く職員同士の人間関係や理想と現実とのギャップに悩んでいる姿が見えてきます。「職場での人間関係」に関しては、利用者だけでなく「一緒に働く人へのマナー」を身につけることが大事です。

 日本には古くから「礼儀作法」という美しい言葉があります。礼儀作法とは「相手を大切に思う心を形にして表す」という意味です。相手を大切に思う心は、相手を思う言葉づかいや態度に表れます。職員一人ひとりが、利用者や家族のみでなく、一緒に働く人に「相手を大切に思う心」を持って接することで、介護現場の人間関係を円滑にし、チームワークが促進され、離職率も下がります。その結果「より良いサービス」の提供が可能になります。

 小さなミスは誰にでも起こるものです。たとえ一人の職員が小さなミスをしても、職員同士の「チームワーク」が良ければ、他の職員がそのミスを補うことで大きな事故に結びつかないような対応をとることができます。

 一方「チームワーク」が悪いと、小さなミスの積み重ねが大きな事故に繋がります。介護現場での大きな事故は利用者の命にかかわることもあります。大きな事故を起こさないためにも職員同士の連携が重要です。たとえば、夜勤の職員との連絡が十分ではなく、その後、勤務に入った職員が、夜間に起こったことを把握できていない状態で勤務をしたことにより、間違った対応をしてしまったというようなこともあります。

 介護現場のマナーというとすぐに頭に浮かぶのは利用者や家族、訪問者へのマナーですが、一緒に働く人へのマナーも重要です。介護は「チームケア」です。職員間のスムーズな連携が必要です。職員間の言葉づかいや態度が利用者への対応にも反映されます。介護に携わるすべての人が気持ちよく過ごすためにも職員同士のマナーが大切だと思います。

──3年未満の職員の離職率を下げるためには、どのような施策が考えられますか?

 まずは職員がキャリアアップできるようなサポート体制が必要です。一番わかりやすいのは「研修」を充実させることでしょう。たとえば、たいていの会社が行っている「入社時の新入社員研修」に加え、「半年後の6カ月研修」も用意します。この時期は、介護現場で実際に働いたうえで悩みを持っている人が多いので、同期で話し合ったり身近な先輩に相談できたりする機会が大切なのです。その後、スキルアップのために様々な研修を行って、キャリアアップを職員自身が実感できる体制を整えることが必要だと感じています。

DVD『こころをつかむ 介護職員研修シリーズ 第3巻 訪問介護で求められる接遇マナー』より

■トラブル、ハラスメントは「一人で抱え込まない」ことが大事

──最近の介護現場で起きているトラブル事例と、問題解決に向けてのポイントを教えてください。

 介護職員が、常に気を配る必要があるのが、利用者の個人情報とプライバシーの保護です。個人情報とは、生存する個人に関する情報で、氏名・生年月日、その他の記述により特定の個人を識別できるもの、「どこの誰か」がわかる情報のことです。たとえば、介護現場では、「利用者基本情報」「ケアプラン」「送迎表」「配食サービス利用者リスト」「訪問介護計画書」などが該当します。

 また、プライバシーとは、他人に知られたくない私事(わたくしごと)、私生活のことです。たとえば、年収や財産状態、納税額などの記録、家族や人間関係などの家庭生活の状況や職歴、学歴などの過去の記録、病歴や身体の障害などの記録があげられます。適切な介護サービスを提供するために知っておく必要がある情報が、多く含まれています。

 介護の仕事は、このような情報を基にサービスを提供しています。利用者の個人情報を知ることで、良いサービスの提供が可能となります。一方で、利用者の個人情報が漏れないように、管理する義務もあります。個人情報の紛失や置き忘れには細心の注意を払う必要があります。

 介護職員は、個人情報やプライバシーの両方に深く関わる仕事でもあります。日頃からしっかりとした管理意識を持って、それらを取り扱う義務があります。

 たとえば、施設の廊下で職員同士が何気なく話した利用者や家族の話が、近くの居室にいた他の利用者に聞こえてしまい、その内容が施設で「噂話」のようになってしまったこともあります。そういった話の中には、その利用者が他人に知られたくない内容が含まれていて、傷つけてしまうことがあるでしょう。

 また、職員が利用者の個人情報が記載された書類を、ホールなどの多くの利用者の目に触れる場所に置いて、利用者の介助をしている間に、ホールに居た他の利用者に見られてしまったことがあります。そのような場合は、書類の中身が見られないように伏せて置くなどの心づかいが必要です。

 先ほど「利用者の『お客様』としての意識が高まっている」というお話をしましたが、最近では、利用者や家族からの「セクシュアル・ハラスメント」や「カスタマー・ハラスメント」の問題も深刻化しています。たとえば「セクシュアル・ハラスメント」では、男性利用者が女性職員の身体をことあるごとに触ってくるなどの行為です。そのような場合は、毅然とした態度で対応することをおすすめします。また「カスタマー・ハラスメント」は、職員に対する暴言や土下座強要、悪質なクレーム等の迷惑行為です。恫喝まがいの理不尽なクレームは職員のモチベーションを著しく低下させ、離職につながる可能性もあります。

 このようなハラスメントを受けた場合は、決して一人で抱え込まないということが重要です。ましてやお金が絡む問題であれば、すぐに対応責任者に相談すること。組織として対応が必要です。そして、ハラスメントには毅然とした態度で対応することが、状況の打開と解決につながります。

──最後に、今回監修されたDVDのおすすめポイントなどがあれば教えてください。

 動画なので理解がしやすく、何度も繰り返し見ることができます。先ほどお話しした内容にもあった「介護職員が身につけるべき、社会人としてふさわしいマナーやコミュニケーション能力、ホスピタリティマインド」――このようなスキルを身につけていただくためにも、とても効果的な教材だと感じております。いつでも復習が可能なように、16ページの小冊子も作りました。研修でDVDと一緒にお使いいただければ、より効果的だと思います。

 また、DVDは3巻に分かれているので、離職率を下げるために「段階的にスキルアップを図る」教材として研修に活用できると思います。

 最後に、私自身が介護の現場で感じることをお話しします。本当に優れた職員は、みな「介護の仕事が楽しい!」と言います。長い間働いているなかで、利用者とのコミュニケーションの仕方もわかり、介護技術もわかり、そうしてスキル全般が身につけば、楽しい仕事になるのです。3年目以降の離職率が高くないのは、経験を積んで介護職の楽しさがわかるからでしょう。ですから、研修などのシステムで3年未満の離職率を下げることはとても大切だと思いますね。

(構成 中西 謡)



蜂谷 英津子(はちや えつこ)
HOTシステム株式会社 代表取締役。
大手デパートや外資系ホテルのVIPの接客やコンサルティングを経て、大手介護企業で介護職の人材育成に従事。2010年にHOTシステムを設立。介護事業所の接遇マナーマニュアルの作成やホスピタリティマナースクールの運営、介護職向けの書籍や雑誌記事の執筆・監修も数多く行っている。介護職のための研修は、内容や事例が介護現場に即しており「分かり易くて現場ですぐに実践できる!」と定評がある。

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