多様性の時代に求められるコミュニケーションの新常識

スマホ世代の新人教育で大切なこと

橋本東光雄 日本経済新聞出版社 日経DVDプロデューサー

 総務省情報通信政策研究所「平成29年情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」によると、平成29年のスマートフォンの利用率は10代から60代までの全年代の平均で初めて80%を超え、最も利用者の多い20代では96.8%という高い数字を示し「ほぼ全員が利用している」状況となりました。

 スマホは私たちのライフスタイルに様々な変化をもたらしましたが、中でもインパクトが大きいのは、コミュニケーションのやり方がすっかり変わったことでしょう。

 ではそれに伴い、企業の人事研修担当者は、スマホ世代である新入社員に対する教育方法をどのように変えて対応していったらよいのでしょうか。同調査報告書のデータを見ながら考えてみましょう。

■スマホ普及がもたらした新たなコミュニケーションスタイル

 2007年6月、iPhoneの発売とともにスマホ時代の幕が開きました。それから12年経ち、中高年世代ではスマホはまだまだ「最近のもの」と感じる人も多いかもしれませんが、20代の若者にとっては子供の頃から慣れ親しんでいる唯一無二の通信手段と言えるでしょう。

 スマホの急激な普及は、同時にソーシャルメディアの普及も加速させ、誰もが常にインターネットを持ち歩くようになりコミュニケーションのやり方に変化が起きました。メッセージ機能に優れたスマートフォンでは、通話ではなくLINEなどでのメッセージのやりとりのほうが安くて便利なため、電話機能があまり使われなくなっているのです。

 調査報告書を見てみましょう。以下のグラフは、「携帯通話」「固定通話」「ネット通話」「ソーシャルメディア」「メール」を、各年代で1日どれくらいの時間を使っているかを示したものです。

出典:「平成29年情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」(47p)
調査対象期間:平成29年11月11日~11月17日

 「スマホネイティブ」な20代と「固定電話とフューチャーフォン(ガラケー)を経験した中高年世代」の40代を比べてみると、顕著な違いはソーシャルメディアの利用時間です。40代が24.7分に対して20代では61分を超えており、約3倍の開きがあります。コミュニケーションの総量も20代がダントツ。スマホ上のソーシャルメディアで友達と頻繁にやりとりをする若者のコミュニケーションスタイルが見えてきます。

 しかしメールに関しては40代が20代より9分近く上回ります。これは調査対象日が「平日」となっているため、仕事でのメール利用が含まれていることが予想されます。

■「電話離れ」は若者だけではない

 そして興味深いのは携帯電話、固定電話、ネット電話(LINE通話など)を合わせた「通話」時間です。20代で14.5分、40代は10.2分。意外なことに20代のほうが長い時間通話をしているのです。よく「若者の電話離れ」と言われますが、実は「電話離れ」は若者に限ったことではなく、全世代で言えることがわかります。

 総じて、若者も中高年も通話をしない代わりにメールやソーシャルメディア経由でやりとりをする傾向があり、電話によるコミュニケーションの機会はますます減少しています。

 そして各年代で固定電話の比率が非常に低く、10代、20代ではわずか0.3分と「ほぼ使っていない」状況。データを見る限り、固定電話は消えゆく通信ツールであることがわかります。

■ビジネス現場での電話にとまどう新入社員

 しかしビジネスの現場となると話は別です。先進的なITベンチャーなどでは電話窓口を設けていないところも増えていますが、国内企業において電話はまだまだコミュニケーション手段の主流です。そこには長い年月をかけて出来上がった「暗黙のルールや常識」が多数あり、電話で話す経験が少ないまま大人になったスマホネイティブの新入社員が戸惑うのは当然と言えるでしょう。

 「最近、自分は“電話恐怖症”ではないか?と思い悩んでいる人が増えているようです。特に新社会人の中には、オフィスの固定電話が鳴ると萎縮、緊張してしまう人もいて、私が研修講師としてうかがったある大手企業の新入社員も「社内研修で電話のマナーについて2時間ほど教わりましたが、本当にこれでいいのか不安で仕方がありません」と本音を漏らしていました」
――吉川理恵子 公益財団法人日本電信電話ユーザ協会 技能検定部長「怖くて電話に出られない!イマドキ新入社員の指導法とは」

 電話を前にどうふるまってよいかわからない新入社員に対しては、「やり方を教える」以外にありません。新入社員教育研修でいま最も需要があるのがコミュニケーション分野、とりわけビジネスコミュニケーションの基本である「電話応対」や「メール対応」というのは頷けます。

■業界によって差がある「電話とメールの常識」

 案外見落としがちなことですが、「電話の常識」は仕事環境や企業文化によって微妙に違います。実は、コミュニケーション教育は、新入社員だけではなく、中堅社員やベテラン社員にこそ必要かもしれないのです。

 例えば、印刷業界から広告代理店に転職をした40代の会社員Aさんは、新人時代に教わった「メールしたのでご確認ください」と相手に電話する習慣をいまだに続けており、まわりから不評を買っています。

 Aさん曰く、印刷業界ではデータは「商品」なので、「万が一届いていなかったらすぐに対応する」という配慮と、「届かなかったとしても送っているので私のミスではありません」と証明するための習慣からそうしているのだそうです。

 しかし、15年前のその常識は今や大多数の人にとって時代遅れであり、迷惑な人と思われる可能性もあります。

 また、先日ある著名人がツイッターで「メールでは失礼にあたるのでご挨拶に伺うとか言われたけど意味不明。なんでメールが失礼なの?」というつぶやきをし、業界や企業によって違う「常識」をめぐって議論が起きました。

 特に法人営業の世界では訪問は常識ですから、礼を尽くして面談を申し入れているつもりでも、相手先は「メールで済む話なのになぜわざわざ来るんだ。非効率で非常識だ。そんなところとは一緒に仕事をしたくない」となってしまう可能性もあります。

 そのあたりの感覚は、同じ会社でも人によって差が出るところです。プライベートでスマホを使いこなしているタイプの社員と、「ガラケーで十分」という社員とでは、ビジネス上のコミュニケーションスタイルにも差が出てくるのは当然でしょう。

■さらに需要が高まる「コミュニケーション研修」

 ビジネスの世界でもコミュニケーションの多様化が進み、「常識」そのものがなくなり、あるいは曖昧になりつつあるからこそ、一般的な「今の常識」を知っておく必要があるでしょう。

 たとえば、あなたは、以下の質問に自信を持って回答できるでしょうか?

Q1.お詫びは、電話よりメールを送ったほうが誠意が伝わる。
Q2.電話が途中で切れてしまった場合は、かけたほうから電話をする。
Q3.大容量のファイルを送る場合は、先方に送り方を相談する。

 これは、新入社員向けの研修用DVD『コミュニケーションの基本シリーズ』(日本経済新聞出版社)に付属する「理解度テスト」の一部です。

 仕事のキャリアの長い方でも、一瞬「あれ?」と思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 まして電話文化や一般社会常識がわからない新入社員に対しては、一つひとつ解説して、細かく教える必要がありますが、それは新入社員にとって安心できてありがたいことなのです。

 職場は日々「答えのない問題」の連続です。新入社員には早い段階でコミュニケーションの基本研修を行い、一般常識そして自社のルール、業界のルールを確認していくことで、仕事人としての成長が加速していくでしょう。

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