コンプライアンスとは何なのか? を「考える」ことの重要性(前編)

~企業不祥事を未然に防ぐために~

千田直人 プリンシプル・コンサルティング株式会社 代表取締役

画像提供:PIXTA

 個人情報漏洩、不正隠蔽、さまざまなハラスメント、品質データ改ざん、バイトテロ……。企業の「コンプライアンス」問題が毎日のようにメディアを賑わしています。多くの企業がコンプライアンス研修などに注力し対策を講じているにもかかわらず、企業の不祥事は減る気配がありません。

 いったいその理由はどこにあるのか? そして、コンプライアンスを考える際に最も重視しなければならない「根本」とは何か?

 日経DVD『コンプライアンス・テスト』全3巻の監修者の一人、プリンシプル・コンサルティング代表取締役の千田直人さんにお話をうかがいました。

■なぜ「今」コンプライアンスが叫ばれるのか?

千田直人 プリンシプル・コンサルティング株式会社
代表取締役

――企業の「コンプライアンス」に関する問題は毎日のようにメディアで取り沙汰されていますが、この流れはいつぐらいからなのでしょうか?

 私が社会に出た四半世紀ほど前には、世の中ではコンプライアンスの「コ」の字も言われてはいませんでした。ところが今は、コンプライアンスを意識するのはビジネスの常識。なぜわずか四半世紀の間にコンプライアンスが広がってきたのか? いったいどんな変化があったのか?

 私の中では4つの答えがあります。

 まずは「世の中の人々が企業に求めるものの水準が高まってきた」ということです。今は単なる製品・サービスの品質だけではなく、「企業品質」というものまで求められる、非常に厳しい時代になってきたということです。

 次に「情報開示が簡単にできる時代」になったということ。都合の悪い情報も隠せる時代ではないということです。かつては組織の奥深くに潜んでいる不祥事などは、簡単には表に出ることはありませんでした。
 ところが、ITの発達やSNSの普及によって、今やそれが簡単に、迅速に、世界中に公開されてしまう時代だということです。調べようと思えば簡単に調べられる。公開しようと思えば誰でも簡単に公開できてしまう。そんな世の中になったということです。

 そして3つめの答えとして「グローバル化」という変化があります。世界中の企業が日本の地でビジネスをしている。また日本の企業が世界中の地でビジネスをしている。そんな時代に、ある特定の地域でしか通用しないローカルルールや慣習などには依存していられない。そんな企業はレッドカードを突きつけられてしまうのです。

 4つめは、「働く人の意識の変化」です。昔の日本社会では「勤め上げる」という言葉があったように、社会に出る際には、入った会社で一生働く、転職もあまりない、ということが一般的でした。そういう時代であれば、会社が何か不祥事を働いていても、それを隠すことが会社のためであり、ひいては自分のためだったかもしれません。

 しかし今は、正社員が転職するのは普通で、契約社員や派遣社員など、さまざまな働き方もある。外国の方や障がいを持った方など、さまざまな方も組織で働いている。そうやって働き方が多様化すると、何か会社におかしなことがあれば、隠して会社を守ろうとするのではなく、「正論」で堂々と対応することが会社のためであり、自分のためになるという考え方が一般的になってきたのです。正論に持ちこたえられる会社でないと、働く人の側から見限られてしまう、という時代になったということでしょう。

 「最近コンプライアンスがよく問題視されるようになった」ことは、何か大きなきっかけによるものではなく、こうした世の中の変化が重なり合った結果だと思います。

■依然として減らない企業不祥事

――最近の不祥事に「傾向」などはあるのでしょうか? 「こんな不祥事が目立つようになってきた」など……。

 傾向とは言えないかもしれませんが、私自身が製造業の出身ということもあり、2年くらい前から次々に明るみに出ている、「日本を代表する大手製造業各社の品質データ改ざん、検査不正」などが大変気になっています。「日本の製造業」という世界的ブランドが深刻な危機に瀕しているように感じます。

 また、依然として「SNSの問題」があとを絶たない点も心配です。いわゆる「バイトテロ」は、一時は沈静化したように思えたのですが、今年になって再燃した感があります。
 そのほとんどは単純な無知や無自覚が原因のようですが、「軽い悪ふざけ」のつもりでも本人は人生を棒に振り、所属企業は重大な損失を被っています。誰にとっても非常に不幸な事態であり、どうにかして食い止められないものか、私も思案しています。

 そして「ハラスメント」もコンスタントな課題です。私も昨今は、一般企業だけでなく、スポーツ指導者を対象としたハラスメント防止研修などにも、繰り返し呼ばれるようになりました。世の中全体の問題意識が高まっているという印象を受けます。

――多くの企業がコンプライアンス研修に注力している一方で、企業不祥事は減っていないように思います。その理由はどこにあるのでしょうか?

 人間は、誰もが常に「楽をしたい、ズルをしたい、自分だけいい思いをしたい、虚勢を張りたい」という願望を持っています。

 そして、これは行動経済学の研究でも明らかにされていることですが、人間は「目の前の小さな“損”を避けるためにはとんでもない賭けに出てしまう」ものなのです。隠蔽の問題もまた「これを表に出したら自分の身が危ない」と近視眼的な保身に走り、“隠す”という大バクチを打ってしまう。こうしたことは人間が人間である限りなくならない性質です。そういう意味で、不祥事はゼロにはならない気がします。

 しかし、この性質はマイナスばかりではありません。プラスに働けば、素晴らしい業務改善や発明をもたらします。ただ一方、悪い方向に働けば、不正や犯罪に発展するわけです。

DVD『コンプライアンス・テスト』第3巻より「Q16 正社員からのハラスメント」(本DVDは各巻にテストを20問収録)

■コンプライアンスの何が「セーフ」で何が「アウト」か?

――かつてはそこまで問題視されなかったような不祥事が時代の変化とともに注目されるようになった、ということもありますか?

 たしかに、社会全体のコンプライアンス意識の高まりや情報開示の活発化や容易化によって、不祥事が「明るみに出やすくなった」ということも間違いありません。マイナス情報も隠せない時代になってきています。その結果、仮に不祥事の絶対数自体は減っていたとしても、発覚率が上昇しているために、表面的には減っていないように、あるいは増えているように見えている可能性もあるでしょう。

 また、世の中全体に余裕が出てきて、求められる水準も高まっています。
 たとえば、今日であれば公害やハラスメントなどに該当することが昔は普通に発生していました。企業にそこまで対処する余裕がなかったからです。でも、今はそれらを問題視できるくらいに、社会や企業のレベルが高まってきていると感じます。基準が厳しくなってきたことで、昔は不祥事とみなされなかった事件も、現代では不祥事になりつつあります。

 時代により、業界により、人により、物事を見る基準、“物差し”はまちまちで、絶えず変化しています。「何が不祥事か?」も時代とともに変わります。

 コンプライアンスに明確なアウトはあっても明確なセーフはありません。だから考え続けなければならないのです。「これは絶対にセーフだ」と決めた瞬間から、猛烈な思考停止が始まってしまうのです。

■つまり「コンプライアンス」とは何を指すのか?

――組織がコンプライアンスの問題に取り組む際に、まず考えなければならないことは何でしょうか?

 「そもそもコンプライアンスって何?」「自分達の存在意義って何?」「なんで○○がダメなの?」という根本部分、総論部分から、まず徹底して掘り下げて啓発すべきでしょう。「急がば回れ」が基本です。

 最近あった「芸人の闇営業」の報道などを見ていて非常に気になるのが、当事者も報道する側も「そもそもコンプライアンスとは」という最も本質的で大切な視点がスコーンと抜け落ちていることです。数学でも国語でも、「言葉の定義」がぐらついている状態では先になど進めるわけがありません。日本人や日本企業の悪い癖ですが、いきなり「じゃあこうすべきだ」と各論や結論だけを語るというケースが非常に多いのです。

 世間でよく使われる「コンプライアンス遵守」「コンプライアンス違反」という言葉もすごく変だと感じます。たとえば、コンプライアンスを(現在世の中で主流の)「法令遵守」とするなら、「法令遵守遵守」や「法令遵守違反」。明らかに変な言葉ですよね? でも誰もそういう指摘をしません。いかに世の中のコンプライアンスの理解が皮相的か、よくわかります。

 これは組織に限らず世の中全体に言えることですが、まずは「そもそもコンプライアンスっていったい何なの? コンプライアンスって違反するものなの?」という取り上げ方や議論をすべきです。私自身、研修を行う際には必ず「そもそもコンプライアンスとは?」というテーマからから始めています。

――千田さんのお考えになる「コンプライアンス」とはどんなものでしょう?

 私自身は、コンプライアンスを、主に次の4つの言葉で定義しています。

「関係者の期待に応えること」
「社会の物差しで考えること」
「受け手の目線で考えること」
「家族や知人に誇れる良い組織であり続けること」

 これらはまったく違う4つのことを言っているのではなく、根本はすべて同じこと。「本当に社会から必要とされ愛される組織」がやっていることを、いくつかの方向から言っただけです。

 こうして考えれば、様々な事件・事故が、「法令違反とまではいかなくても、コンプライアンスとしては完全に問題」であることが、ごく自然に理解できるはずです。

 そして、本当に社会から必要とされ愛される組織であれば、これらはまったく難しいことではないでしょう。当たり前に行えることです。つまり、コンプライアンスは難しいと言われがちですが、実は「できて当たり前のこと」なのです。

――ありがとうございました。次回は、「実際の職場」におけるコンプライアンス実践の方法についてうかがっていきます。

(構成 中西 謡)


後編はこちら



千田 直人(せんだ なおと)
プリンシプル・コンサルティング株式会社 代表取締役。
1969年、石川県生まれ。東京大学法学部卒。トヨタ自動車での教育・法務業務を経て、2009年、プリンシプル・コンサルティング株式会社に参画。以後、民間企業や地方自治体のコンプライアンス・リスク管理・ハラスメント対策などを中心に活動。また、トップアスリート(プロ選手・日本代表選手・企業チーム選手など)向けのリスクマネジメント研修や、スポーツ指導者向けのハラスメント防止研修などにも積極的に取り組んでいる。

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