働きやすい職場をつくる!ハラスメント相談窓口対応

パワハラ防止法2020年への備え

涌井美和子 合同会社オフィスプリズム 統括、オフィスプリズム シンガポール代表(臨床心理士、社会保険労務士、1級キャリアコンサルティング技能士)

 職場でのパワーハラスメント(パワハラ)防止を義務付ける関連法が、2019年5月29日、参議院本会議で可決、成立しました。
 企業に求められる防止策の内容は、パワハラ禁止規定の就業規則への記載、パワハラの相談体制の整備、相談者のプライバシー保護などが想定されています。大企業は2020年4月から適用され、中小企業は同時期に努力義務でスタートし、その後2年以内に義務化される見通しです。

 対策を怠れば、パワハラを改善しない企業として社名が公表されるなど、企業ブランドが失墜するだけでなく、優秀な人材の獲得にも支障が生じます。経営に大きな打撃を与えかねないパワハラ対策への取り組みは、企業にとって急務となりました。

 職場のハラスメント相談窓口の設置・運営のポイントについて、日経DVD『ハラスメント相談シリーズ』全6巻の監修者で、ハラスメント相談などの企業研修をおこなっている涌井美和子さんにお話をうかがいました。

Q 企業の相談窓口の設置状況はいかがでしょうか?
  設置する際のポイントを教えてください

 法案が成立したことで、企業には早急にパワハラ、セクハラなどを含むハラスメント相談窓口を設置するとともに、再発防止の対策が求められることになりました。
 大企業ではすでに相談窓口を設けているところが多いと思います。中小企業は会社によってさまざまですが、まだ設置していない会社は、成立した法律の内容をチェックし、相談窓口の設置方法についても情報を収集して準備を始めたほうが安心です。

 ハラスメントの相談窓口をつくる第一歩は、まず社内でハラスメント問題担当者を決めることでしょう。人事部に詳しい人を配置するほうが望ましいのですが、何でも人事部でおこなうのは限界がありますし、人的資源が限られる中小企業など会社の規模によっては、外部の専門機関と委託契約をして活用する方法もあります。ハラスメント問題に詳しいカウンセラーや弁護士、社労士と顧問契約を結ぶなど、外部に相談できる体制を整えるのもよいでしょう。

●気軽に相談できる窓口であることが重要
 ハラスメントは、対応が遅れて問題が深刻になるほど解決が難しくなります。できるだけ初期の段階で対応して解決することが大事です。

 そのためには、「これって、ハラスメントかも?」という疑問でもよいので、問題が小さいうちに相談してもらうことが大切です。ハラスメントを受けている本人に限らず、周囲で気づいた人が相談してくれると早期に解決できるかもしれません。
 また、「これって、ハラスメントなの?」と部下を指導する上で気になった管理職なども気軽に相談できる窓口が必要です。

 大企業では、内部と外部に相談窓口を設置したあと、より相談しやすい環境を整えるため、部署ごとに一般業務と兼任で相談担当者を決める動きがあります。部署内の相談担当者に対する、現場での対応をテーマにした研修も年々増えています。

 中小企業では、こういった対策をとることが難しいので、ハラスメントの予防に力を入れる傾向があります。規模が小さいと配置転換などもしづらく、問題がこじれると被害者が会社を辞めるなど人材の流出につながってしまうからです。

●できれば、内部と外部、両方に相談窓口を
 相談窓口は、内部と外部、それぞれにメリット、デメリットがあります。

 被害者にとって内部相談窓口のメリットは、仕事の内容や職場風土がわかっているので理解してもらいやすい点。デメリットは、守秘義務に対する不安がある点でしょう。

 外部の相談窓口はその逆で、守秘義務に対する安心感はありますが、状況をすぐに把握してもらいにくい可能性があることです。できれば、両方設置したほうがよいでしょう。相談内容によっても、どちらが相談しやすいかが変わるので、相談者にとっても選べたほうが安心です。

Q 社内に相談窓口があっても、実際に相談することをためらう社員もいるのではないでしょうか?

 相談しやすくするには、守秘義務を徹底するということをアピールして、周知を図ることが重要です。
 相談者には、話すことで自分の不利益にならないか、本当にハラスメントが解決するのかという不安があるでしょう。その不安を取り除くために、誰が話を聞き、誰と情報を共有し、どのように解決していくのかを、マニュアルやフローチャートなどで示すとよいと思います。
 相談を担当した者以外の人に伝える際には、事前に必ず相談者の同意を得るということも伝えます。

Q 被害者への対応で注意すべきポイントを教えてください

●被害者対応は初期対応が重要
 被害者対応は、初期対応がとても大事です。まずは感情をくみ取ることを心掛けるのがよいと思います。
 最初に相談を受けた上司が、「そのくらいどこの職場でもあるよ」「少しくらい我慢したほうがいいよ」「君もそういうところは気をつけたほうがいいよ」など、訴えを否定したり、本人にも非があるようなことは言ったりしないで欲しいと思います。

 上司は論理的に解決策を伝えたつもりでも、ハラスメントの被害者は、怒ったり傷ついたりして感情的になっている場合が多いので、被害者が望む対応とズレが生じて反感を買うことにもなりかねず、問題解決が難しくなるでしょう。
 また、「何とかするよ」と言いつつ、いつまでもアクションを起こさなかったり、その後の経過報告を本人にしなかったりすると、こじれるケースが多いです。

●タイミングと方法をきちんと話し合う
 解決に向けて動き始めるタイミングや方法についても、相談者と話し合います。
 相談を受けてすぐに動いたり、行為者に事情を聞いたりするような直接的な方法は、相談者が訴え出たことを勘付かれてしまい、逆にハラスメントが陰湿化する可能性もあります。
 ニュースレターなどで遠回しに注意喚起をする方法をとる場合は、すぐに効果は上がらないかもしれませんが、相談者が訴えたことが気づかれにくい利点があります。
 このような対策案について、メリット、デメリットも被害者に説明するとよいでしょう。

DVD『ハラスメント相談シリーズ』第3巻より

Q 行為者への対応で注意すべきポイントはありますか?

 被害者対応よりハラスメント行為者対応のほうが、相談のスキルが必要になると言えるかもしれません。行為者の言い分をよく聞いて、心を開いてもらわないと、根本的な問題解決にはつながらないからです。

 行為者にすれば、会社の方針で一生懸命部下の指導をしていたつもりなのに、それがパワハラだとして処分されてしまっては納得がいかないでしょう。会社と敵対することになるとよけいにこじれてしまいます。

 被害者対応も大事ですが、実は行為者対応にも神経を使わないといけないのです。

●グレーゾーンの場合の対応
 明らかな問題行動があれば懲罰規定の対象となりますが、グレーゾーンのケースだと、本人に行動を変えていってもらわないといけません。
 面談の中では、すぐに自分のパワハラに気づいて、「あー、自分が悪かった」というふうにはなかなかならないものです。行為者は管理職の人が多いので、まずは、より部下を活かすためのマネジメント法などのようなテーマで話を進めるとよいでしょう。

Q 最後に、パワハラを減らすには、どうしたらよいのでしょうか?

●パワハラの原因のひとつは、コミュニケーション不全
 最近の傾向として、何でもかんでもパワハラだとアピールする人も増えているようです。その理由はいろいろで、会社や上司に対する不満が高じた結果であったり、あるいは特定の人を攻撃したくて訴える人であったりします。中には、単にかまってもらいたくてなど、本人の性格傾向に問題がある人もいます。

 もしコミュニケーション不全によって問題が起こっているのなら、それを解決するためにどうしたらよいのかを考えることが大事です。
 個人的な怒りや不満だったら、そこを解消することで問題を解決できる場合もありますが、本人のパーソナリティに問題があるなど、こじれそうな場合は、早めに弁護士などの専門家に入ってもらうことも必要です。

●部下の指導も相手に合わせる
 パワハラの基準は、相手の受け取り方によって変わる場合があるので、部下に合わせて指導法やコミュニケーションの方法を変えることが、予防につながります。

 アンガーマネジメント(怒りの感情を管理すること)ができていることが前提ですが、部下を叱るときの言葉や態度に気をつけていれば、必要な叱責はしたほうがよいと思います。
 そもそも部下と上司の間に信頼関係があれば、少々言い過ぎても部下はわかってくれると思いますが、上司側も言い過ぎたと気づいた時はすみやかに謝ることが大切です。

 パワハラは、指導力、共感力、コミュニケーション能力、アンガーマネジメント力の欠如などが原因であることも多いと言われています。特に、管理職のマネジメント能力を高める努力をすることが、結果的にハラスメントの予防につながると思われます。

(聞き手 生島典子)

関連著者・監修者

涌井 美和子(わくい みわこ)

合同会社オフィスプリズム 統括、オフィスプリズム シンガポール代表 (臨床心理士、社会保険労務士、1級キャリアコンサルティング技能士)
青山学院大学文学部史学科卒。大学卒業後、企業勤務経験、社労士事務所勤務を経て、東京国際大学大学院修士課程修了。在学中にコンサルティング事務所を開業、修了後も平行してカウンセリング経験(公的機関相談室、医療機関、EAP会社等)を積む。現在はカウンセリング・オフィス プリズム(http://office-prism.com)のカウンセラーを務めるかたわら、メンタルヘルス・コンサルタント、キャリア・カウンセラー試験面接官などの業務に携わる。執筆・講演多数。主な著書は「職場のいじめとパワハラ防止のヒント」(経営書院)、「企業のメンタルヘルス対策と労務管理」(日本法令)「モンスター社員が会社を壊す!?」(日本法令)、「金融機関のメンタルヘルス」(金融財政事情研究会)ほか。臨床心理士・社会保険労務士のW資格者として草分け。

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