『天才を殺す凡人』はこうして生まれた

あなたの才能は何ですか?――『天才を殺す凡人』刊行記念 北野唯我氏講演録より(3月15日、梅田 蔦屋書店にて)

北野唯我 ワンキャリア最高戦略責任者

 公開瞬く間に30万pvを超えた人気ブログをベースにした書籍『天才を殺す凡人――職場の人間関係に悩む、すべての人へ』は、9万部のベストセラーとなっています。著者の北野唯我氏が梅田 蔦屋書店で講演した内容をもとに、本書が誕生するに至った経緯を紹介します。

【本書のあらすじ】
 “天才”女性創業社長に惚れ込み、起業に加わって10年。会社は大きくなったが、新事業は振るわない。「社長は終わった」などという声も聞こえてくる――。
 そんな悩みを抱える広報担当の“凡人”青野トオルは、謎の秋田犬ケンと出会う。関西弁と東北弁がまざった珍妙な言葉を使うケンは、悩める青野に熱血指導する。
 人間の才能とは何か、なぜ人はすれ違ってしまうのか、私たちは自分の中にどのように才能を見い出し、どうやって伸ばしていけばいいのか。今最も注目されるビジネス作家による90分で読める物語!

■人の才能は3つに分けられる

 人の才能は3つに分類することができます。1つ目は創造性。 2つ目は再現性、論理性。3つ目は共感性です。この3つの才能によって組織も動き、社会も進化する。さらに個々人の中にこの3つがあります。それぞれの特徴を示したのが下の図です。

 共感性を重視する人は、天才、とくに目に見える成果を出す前の天才を理解できないため、排斥する傾向にあります。一方、天才は凡人に対し本当は理解してほしいという気持ちを持っています。さらに、秀才は天才に対し、「ねたみ」と「憧れ」という相反する気持ちがあります。

■本書を書いたきっかけは「悔しさ」

 「この本を書こうと思ったきっかけは何ですか?」と、よく聞かれます。

 本書を書くきっかけは、「自分の子供を取られた経験がありますか?」という問いと同じです。以前、シナリオを習っていたのですが、その時に好きな映画について分析したことがありました。『アイ・アム・サム』という、ショーン・ペンが出ている映画があります。

 この映画では、障害を持つ主人公が子供を授かり、主人公は子供を一生懸命育てます。しかし、いろいろな理由から親権を奪われそうになります。それをプレゼンによって乗り越えていくシーンがあり、僕はとても感動しました。

 子どもを奪われるということは、人生で一番悔しい経験だと思います。僕が『天才を殺す凡人』という本を書く動機になったのも、似たような出来事でした。その時は深い絶望と悔しさを感じました。

 その時、この体験を自分で消化するだけでなく、同じように悔しい思いをしている人に届けたいと思って書いたのが、『天才を殺す凡人』のもとになったブログ「凡人が、天才を殺すことがある理由。」でした。

 本書で一番書きたかったシーンがあります。物語の後半、天才のアンナが主人公の青野に対し、「私がここまで生きてこられたのはあなたのおかげだ」と言うシーンです。本書はこのシーンのために書いたと言っても過言ではありません。

 最初にブログを書いた時、当時付き合っていた彼女にそのブログを見せました。すると、「天才の苦労は分かる。確かに新しいものをつくる人は大変だというのは分かる。だけど、共感の神が疲れた時はどうすればいいの?」と聞かれました。

 メディアでは新しいものをつくる人にばかりフォーカスが当たりますが、その人を支える人もいます。そのことがきっかけとなり、本書を、支える人=「共感の神」(共感性が高く、誰が天才かを見極められる人)へのラブレターにしようと思いました。

■なぜ「犬」が登場するのか

 「なぜ犬なんですか?」という質問もよく受けます。本書にはしゃべる犬が出てきます。今でも覚えているのですが、本が出たあと、最初のAmazonのレビューは3点でした。その理由を見ると、「内容に関しては文句なしで星5つ。ただし、犬が微妙なので星3つ」と書かれていました。犬だけで星が2つも減るの? と後悔しましたが、でも、犬でなかったらだめだったと思います。

 第1に、もし犬でなく人間だったら、超嫌な奴になり、「お前がやれよ」「お前が解決しろよ」となってしまったでしょう。

 さらによく聞かれる質問は、「なぜ物語なんですか?」です。そして「どうやって物語をつくっているのですか」です。

 物語をつくる際には、3つのフェーズがあります。1つ目は理論です。まず三者の構造についての理論をつくりました。

 次に、キャラクター同士で会話をさせます。例えば、天才アンナと秀才の神埼秀一がケンカをするとしたら、どういうやりとりをするかなと考え、書き出します。逆にアンナと神埼が、もし仲良くなるとしたらどうなるかな、と書き出し、キャラクターをつくっていきます。

 まず自分の中にある「原液」のようなものを取り出し、一滴ぽとっと落として、それを培養させていくイメージです。

 そして、キャラクターの人格らしきものが見えてきたら、次にキャラクターに苦難、難題を与えていきます。例えば「一番嫌なことは何ですか?」と、青野に聞きます。すると、青野は、「アンナが大好きで尊敬しているし、応援しているので、アンナが攻撃されたり、アンナと別れるのが嫌です」と答えます。キャラクターは知恵を絞り、頑張って乗り越えようとします。

 ビジネス書×物語という形式の価値は、登場人物に感情移入することができることです。感情移入というのは、登場人物が困難に直面しない限り生まれてきません。人間がもっとも成長するのは、果たして解決できるだろうか、大変だなと思ったあと、なんとかがんばって何かしらの答えを見つけ出し、やる、と決めた時だと思うからです。

■人の可能性を阻害するものに憤りを感じてきた

 『天才を殺す凡人』の「おわりに」で書いた「人の可能性を阻害するものへの憤り」を、僕はずっと抱いていました。人が何かに挑戦しよう、頑張ろうと思った時、固定概念やいろいろな力学によって阻害されてしまうことに、小さいころからものすごく憤りを感じるタイプでした。

 誰かが挑戦しようとしている時や転職しようとしている時に、心ないことを言う人がいます。「お前はこの会社に1、2年しかいられなかったのなら、どこへ行っても活躍できない」とか、「転職は裏切り者がすることだ」などです。そういう一言が、どれだけ人の可能性や挑戦心を奪っているのか、僕はひどくむかついて、『転職の思考法』を書きました。

 『天才を殺す凡人』は起業家の方が絶賛してくれます。それは新しいことを始める人は、最初は必ず「うまくいかない」、「そんなことを誰が求めるのか」などと言われた経験を持っているからです。

 未来をつくろうとしている人を応援するメッセージをつくり、しかも、それを理論化、体系化して、皆が共通言語として話せるようになれば、世の中は少し変わるのではと思います。

■「共感」より「理解」が重要だ

 近頃は「共感が大事」と言われます。確かに今の時代、共感力は重要です。SNSの世界は、共感によってバズったりしますから、共感力を持っている人は確かに強い。しかし、共感は人々を優しくするかという問いに対しては、なかなか難しいと答えます。

 共感は、基本的に共通項のある人の間に生まれる感情です。それは多様性をもたらすというより、同質化のような気がします。

 例えば、僕は東京の渋谷で働いていますが、もし渋谷で兵庫県宝塚市に住んでいる人と会ったら、一瞬で仲良くなるでしょう(著者は宝塚市出身)。これが共感だと思います。

 でも、本当に人間が優しくなるためには、共感ではなく、理解が必要だと思います。

 1人1人の中に、天才や秀才や凡人がいると思います。例えば、夜中に仕事のことを考えていて、面白いアイデアを思い付いたとします。しかし、ちょっと冷静になって、「待てよ。これはこういうところのロジックが弱い」とか、「市場規模はこれくらいかな」などと考えて、翌朝、そのアイデアをもう1回見直したら、恥ずかしくなるような経験はありませんか。

 それは、自分の中に天才が生まれ、その後、秀才がロジックをチェックし、最後に凡人が共感性、感情をチェックする流れだと思います。

 また、教室や職場で浮いている人、変なことを言う人、世の中からすると、少し外れたことする人に対しても、「待てよ、この人は天才の要素があるかもしれない」と思うべきです。それによって境界線は溶けていきます。本書によって人間同士の相互理解が深まっていくといいですね。

北野 唯我(きたの ゆいが)
兵庫県出身。神戸大学経営学部卒。
就職氷河期に博報堂へ入社し、経営企画局・経理財務局で勤務。
その後、ボストンコンサルティンググループを経て、2016年、ワンキャリアに参画。
執行役員として事業開発を経験し、現在同社の最高戦略責任者、レントヘッドの代表取締役。
著書に『このまま今の会社にいていいのか?と一度でも思ったら読む 転職の思考法』(ダイヤモンド社)。

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