怖くて電話に出られない!イマドキ新入社員の指導法とは(前編)

“知らない人”からの電話を怖がるスマホ世代

吉川理恵子 公益財団法人日本電信電話ユーザ協会 技能検定部長

 “電話恐怖症”を自覚する新社会人が増えています。スマホならまだしも、オフィスの固定電話が目の前で鳴るだけでストレスを感じる新人もいるようです。人事・研修担当者のなかにも、どのように電話応対の教育を実施すればよいのか悩む人が増えていると聞きます。

 そんな新入社員・若手社員たちに電話応対の重要性を説き、恐怖を克服する秘訣を伝えているのが、公益財団法人日本電信電話ユーザ協会 技能検定部長の吉川理恵子さんです。いかにして、電話が苦手な新人のマインドを変えるのか。このたび監修いただいた新刊、日経DVD『コミュニケーションの基本シリーズ』全3巻の内容をふまえ、お話しいただきました。

“電話恐怖症”を自覚する若者が増えている理由

 最近、自分は“電話恐怖症”ではないか?と思い悩んでいる人が増えているようです。特に新社会人の中には、オフィスの固定電話が鳴ると萎縮、緊張してしまう人もいて、私が研修講師としてうかがったある大手企業の新入社員も「社内研修で電話のマナーについて2時間ほど教わりましたが、本当にこれでいいのか不安で仕方がありません」と本音を漏らしていました。

 そもそも、どうして電話に対して恐怖心を覚えるのでしょうか。20代を中心とした「デジタルネイティブ」と呼ばれる世代の人たちは、物心ついたときからパソコンや携帯電話、が身近にあり学生時代はスマホを駆使してコミュケーションを楽しんでいる世代です。現在、40代~50代の管理職世代に比べて、よほど電話による会話に慣れているのではないかと思えます。

 ところが、よくよく考えてみると、彼らはごく仲間内の、よく見知っている人たちとのコミュニケーションを図るためにスマホを駆使しています。しかし、当然のことながら、会社に電話をかけてくる相手は、新入社員にとっては、知らない人ばかりです。知らない人からの電話に慣れていないどころか、恐怖心さえ抱いてしまうのでしょう。

 電話に対する恐怖心は、彼らが育ってきた社会環境にも起因する部分もあると思います。かつてよりも近所づきあいが希薄になり、挨拶を交わすことも減っています。近所でありながら見知らぬ間柄の人が増え、防犯などのために子どもの頃から、「知らない人と話してはいけない」などと教わってきた世代なのです。

 一方、ご家庭においては、悪質な勧誘電話などを避けるために、「知っている人以外からの電話に出てはいけません」と言われて育ってきています。ナンバーディスプレイの登場により、相手を特定できるようになったことで、それが可能になりました。彼らはまさに、知らない人とはあまり話すことがない、そんな環境で生まれ育ってきた世代といえます。
 ですから、まったく知らない人は“怖い人”であり、当然のことながら、知らない人からかかってくる電話に対して自然と恐怖を感じてしまうのでしょう。

“電話恐怖症”を克服する方法とは?

 そんな彼らに、いったいどのように電話応対を指導すればよいのか。多くの企業の人事担当者や上司が頭を抱える問題かと思いますが、私はそういった皆様に、「電話応対の方法を教えるより先に、電話は怖くないのだということを教えてあげるのが大切です」と伝えています。

 初対面の方に会うことも、電話と同様に恐怖を感じるという新人営業マンもいます。ところが、優秀な営業マンは相手先企業の事業内容や業績、さらに可能であれば相手のプロフィールなどを事前に調べて、しっかり頭に入れてから会いに行くことで、スムーズに会話ができるよう努力をしています。

DVD『コミュニケーションの基本シリーズ』第3巻より

 電話応対においては、そういった事前の準備ができないことに不安を感じている人も多いようです。ただ、電話を受けるにしても、「こういったお客様から電話がくるかもしれない」「こういった内容の話がくるかもしれない」と想像を働かせることは可能で、それに合わせて心の準備をしておくことはできます。
 もし電話応対中に困ってしまったときには、途中で「詳しい者に代わります」と相手に伝え、周囲の人に助けを乞うという選択も可能です。全部自分で背負い込む必要はありません。新入社員であればなおさら、周囲にサポートを求めることが許されますから、むしろ今のうちに積極的に電話に出て克服していただきたいとお伝えしています。

 最近の若い人たちは非常に優秀です。色々な知識を持っていて情報感度も高いです。ただ、自分とは違った考えや多様な価値観を柔軟に受け入れる姿勢があまり見られないような気がしています。実は、こういった傾向も「電話恐怖症」を助長している可能性があります。

 限定された世界で生きてきた学生時代とは違って、社会人になると、年齢や立場などが違う多様な人たちと触れあうことになります。色々な考えや意見を持っているお客様がいらっしゃいます。まずは、その多様な価値観をいったん認めて受け入れることです。意地を張らずに受け入れていけば、自然と知らない人に対する恐怖は薄れていきます。

 むしろ多様な人たちと触れあうことは楽しいことだと感じるようになれば、社会人生活は非常に希望あふれるものとなるかもしれません。さらに、電話は普段は接することのない人と知りあうことのできる絶好の機会だとまで考えられるようになれば、仕事も楽しくなるでしょう。

ツールの使い分けを覚える

 電話で話すのが嫌だからといって、面倒な用件をメールやチャットだけで済ませようとすると、よく見知っていない相手とのやりとりでは話がこじれるリスクが高まります。型どおりに書くと慇懃無礼になりますし、どうしても“心がこもっていない”と受け取られがちです。

 特にクレーム処理の場合、電話で「申し訳ございません」と直接謝った方が相手の気持ちも収まります。メールは情報を伝えるツールで、電話は気持ちを伝えるツールなのです。その時々の状況にあわせて選択・活用することで、コミュニケーションはよりスムーズなものになっていきます。たとえば、急ぎの場合などは、優先順位として、まず電話で確実に伝えることが重要です。

 デジタルのコミュニケーションツールが急速に発達し、より便利に、スピーディになったため、「もはや電話でビジネスをする時代ではない」と言う人もいます。確かに、一理あるとは思いますが、シチュエーションにあわせたツールの使い分けは必須です。電話で人と接することができる人をしっかり育成することは、コミュニケーション能力全体の向上にもつながるのです。

周囲の人に聞かれているから成長する

 最近は、部署で共有する固定電話ではなく、各社員に支給されているスマホに直接、電話がかかってくるという企業も増えています。中には、周囲に誰もいない環境の中で落ち着いて電話ができるという配慮から、電話応対専用の個室が用意されている企業もあります。

 確かに、新入社員の中には「周囲にたくさんの人がいるところで電話をするのが苦手だ」と言う人もいます。周囲の人に自分の電話応対を聞かれることが恥ずかしいというのですが、実は周囲の人に聞かれている環境こそが、電話応対の指導にとって重要なポイントになります。

 新人が電話をとったら、周囲が注意を払ってくれているので、言葉遣いやマナーが悪かったらその場で指導してもらえます。そんな経験を重ねながら体得していくものです。電話口でいきなりお客様から叱られるより、上司や先輩から優しく指導されたほうが、彼らにとってよほどよいはずです。

 逆に、一人きりで電話の受け答えをしていると、自分の電話対応はこれでよいのか?と迷いが生じたり、困ったときに誰にも助けてもらえないと、ますます電話に対する苦手意識が強くなったりします。電話応対の上達を妨げるもっとも大きな要因は苦手意識です。

 DVD『コミュニケーションの基本シリーズ 第1巻 新入社員・若手社員のためのビジネス電話応対』は、いきなりマナーについて解説するのではなく、苦手意識を取り除き、基本マナー、電話の重要性について解説しています。 苦手意識を克服することが積極的な電話応対につながり、自然とスキルアップが図れます。

(構成 伊藤秋廣)


吉川 理恵子(よしかわ りえこ)
公益財団法人日本電信電話ユーザ協会 技能検定部長 
毎年、全国規模で行われる「電話応対コンクール」、コミュニケーション能力の養成と電話応対の指導者育成を目指す「電話応対技能検定」の運営などを手がける電話応対教育約30年のベテラン。編著書ならびにDVD監修、講演や雑誌への寄稿多数。

                               

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