IR 担当に求められる姿勢とは

初心者でもわかるコーポレート・ファイナンス入門(第5回)

いちよし経済研究所シニアアナリスト 高辻成彦氏

 企業価値評価やファイナンスへの関心の高まりを背景に、この分野について解説した多くの書籍が刊行されています。しかしいざ初心者が読むとハードルが高く、理解しにくいものが多いのが現状です。

 企業の経営企画担当者や、大学・ビジネススクールで学ぶ学生などへ向けて、初心者にもわかりやすくまとめた『アナリスト直伝 使えるファイナンス入門』の著者 高辻成彦氏に、コーポレートファイナンスの基本について、連載で語っていただきます。

 最終回の第5回は、IR(インベスター・リレーションズ)についてご紹介します。

IRは投資家向けの広報

 IR(インベスター・リレーションズ)とは、「企業の業績や株価に対する期待値の適正コントロール活動のこと」で、筆者による定義です。
 IRは広報の一分野で、投資家向け広報です。IR 担当部署は、ファイナンス理論への理解が求められます。なぜなら、取材するアナリストや機関投資家、個人投資家は、ファイナンス理論を駆使して、企業業績がどれくらいになるか、適正な株価はいくらか、を常に判断しているからです。都合のいい情報ばかり提供しても、業績がついて来なければ、決算発表時に株価が急落することになります。

情報開示には4つの区分がある

 情報開示には、法定開示、適時開示、IR、PR(パブリック・リレーションズ)の4つの区分があります。

 法定開示とは、「金融商品取引法と会社法により義務付けられている情報開示」で、有価証券届出書や有価証券報告書などが開示例です。
 適時開示とは、「金融商品取引所が義務付けている情報開示」で、決算短信や業績予想の修正リリースなどが開示例です。
 PR は、「任意で開示する各ステークホルダーに有用な企業情報」で、いわゆる広報のことです。

 IR は、概念上は、これら3つの概念以外のもので、「任意で開示する投資判断に有用な企業情報」です。開示例としては、決算説明会資料やアニュアルレポートなどがあります。これらは任意開示のもので、法律や証券取引所の規則で義務付けられたものではありません。

実務上のIR活動は他の領域と重複する

 実務上のIR活動においては、法定開示と適時開示を含めて対応していますし、IR とPR も内容の重複があります。また、IR と密接に関わりますが、株主への対応の場合には、SR(Shareholder Relations, シェアホルダー・リレーションズ)と呼びます。あくまで概念上の違いとして理解しましょう。
 IR 活動は、自社にとって都合のよい情報だけでなく、時には都合の悪い情報も早期開示が求められます。高い誠実性や公平性、早期開示姿勢が求められる業務と言えるでしょう。

フェア・ディスクロージャー・ルールは情報開示の不公平を是正

 2018年4月に改正金融商品取引法により、フェア・ディスクロージャー・ルールが適用されることになりました。フェア・ディスクロージャー・ルールとは、企業が未公表の決算情報などの重要な情報を証券アナリストなどに提供した場合、速やかに他の投資家にも公平な情報提供を行うことを求めるルールです。本ルールの導入により、上場企業の情報開示の公平性は、より進んでいくことでしょう。

 筆者はこの度、『アナリスト直伝 伝えるファイナンス入門』(日本経済新聞出版社)を出版しました。この本では、ファイナンスの基礎について、できるだけ端的に平易な表現でまとめています。今回ご紹介したIRについても記述しております。ぜひ、ご一読いただければ幸いです。

 

高辻 成彦(たかつじ なるひこ)略歴
いちよし経済研究所(東証1部・いちよし証券の調査部門)のシニアアナリスト。


立命館大学政策科学部卒、早稲田大学ファイナンスMBA。主な職歴は経済産業省、ナブテスコ(東証1部)の広報・IR担当、ユーザベース(東証マザーズ)のシニアアナリスト。経済産業省在籍時は経済波及効果測定のための経済統計である産業連関表の時系列表作成に参画。ナブテスコの広報・IR担当時は日本IR協議会によるIR優良企業特別賞の所属会社初受賞に貢献。ユーザベース在籍時は業界・企業情報サービス・SPEEDAの業界レポート作成や、経済ニュースアプリ・NewsPicksの経済コメント活動に勤め、最古参ユーザーとして8万人以上のフォロワーを得る。現職では企業取材活動をもとに年間200本以上のアナリストレポートを発行。日経ヴェリタスのアナリストランキング、トムソン・ロイターのアナリスト・アワード・ジャパンにランクイン。

著書に『アナリストが教える リサーチの教科書 自分でできる情報収集・分析の基本』(ダイヤモンド社)がある。主なTV 出演歴はBS ジャパン『日経モーニングプラス』など。日本経済新聞や日経ヴェリタスなどでのコメント掲載多数。

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