企業価値評価のための3つのアプローチ

初心者でもわかるコーポレート・ファイナンス入門(第4回)

いちよし経済研究所シニアアナリスト 高辻成彦氏

 企業価値評価やファイナンスへの関心の高まりを背景に、この分野について解説した多くの書籍が刊行されています。しかしいざ初心者が読むとハードルが高く、理解しにくいものが多いのが現状です。

 企業の経営企画担当者や、大学・ビジネススクールで学ぶ学生などへ向けて、初心者にもわかりやすくまとめた『アナリスト直伝 使えるファイナンス入門』の著者 高辻成彦氏に、コーポレートファイナンスの基本について、連載で語っていただきます。

 第4回は、企業価値評価の手法についてご紹介します。

企業価値評価は「会社の値段」を評価すること

 企業価値評価とは、「会社の値段を評価すること」です。
 企業価値評価には、3つのアプローチ(体系)があります。

・インカム(収入)・アプローチ
・マーケット(市場)・アプローチ
・コスト(原価)・アプローチ

 です。インカム・アプローチとは、「将来や過去のキャッシュ・フローや損益をもとに価値評価を行う手法」です。このアプローチの典型例がDCF法(Discounted Cash Flow Method)です。

 マーケット・アプローチとは、「市場において成立する価格をもとに企業価値を算定する手法」です。類似会社比較法や類似取引比準法など、市場の類似例をベースに算定する方法があります。

 コスト・アプローチとは、「対象企業の貸借対照表の純資産をベースに企業価値を評価する手法」です。ただし、企業が保有する個別の資産価値と、会社が将来どれほどのキャッシュを生み出すのかとは無関係であるため、継続企業を前提とした場合には、採用する理論的根拠に乏しいと言われています。

インカム・アプローチはDCF法が代表

 インカム・アプローチでは、「DCF法」が企業価値評価ではよく使われます。3つのアプローチの中でも最も使われている、といっても良いでしょう。ただ、この手法は、前回取り上げた資本コストの算定や、調査対象企業の将来キャッシュ・フローの予測など、さまざまな論点を理解したうえでなければ算定まで辿り着けないため、なかなか大変です。

マーケット・アプローチは類似会社比較法が代表

 マーケット・アプローチは、「類似会社比較法」が代表です。類似会社比較法は、非上場企業の企業価値を推定する際によく使われる方法です。マルチプル法とも言われます。類似会社の株価倍率の算定を行い、対象企業の株主資本価値を算定します。どの類似会社を選定するかが非常に重要になります。

コスト・アプローチは修正純資産法が代表

 コスト・アプローチは、「修正純資産法」が代表です。修正純資産法とは、「時価と簿価の差額が重要な項目のみを時価に置き換えて算定評価する方法」です。

 これに対して、「時価純資産法」という方法もあります。時価純資産法とは、「企業が所有している全財産の価値を、評価時点の時価により算定評価する方法」です。企業の資産・負債のすべてをもれなく時価評価することは難しいため、実務では修正純資産法を選択することが多いでしょう。

 企業価値評価は、コーポレートファイナンスの中核を成す論点です。特にDCF法は、アナリストや企業の理論株価を算定したり、財務コンサルタントがM&Aで適正価格を算定したりする際に使う手法ですので、知っておくと便利です。

 筆者はこの度、『アナリスト直伝 使えるファイナンス入門』(日本経済新聞出版社)を出版しました。この本では、ファイナンスの基礎について、できるだけ端的に平易な表現でまとめています。今回ご紹介した中で、DCF法は実例を踏まえて記述しております。ぜひ、ご一読いただければ幸いです。

 

高辻 成彦(たかつじ なるひこ)略歴
いちよし経済研究所(東証1部・いちよし証券の調査部門)のシニアアナリスト。


立命館大学政策科学部卒、早稲田大学ファイナンスMBA。主な職歴は経済産業省、ナブテスコ(東証1部)の広報・IR担当、ユーザベース(東証マザーズ)のシニアアナリスト。経済産業省在籍時は経済波及効果測定のための経済統計である産業連関表の時系列表作成に参画。ナブテスコの広報・IR担当時は日本IR協議会によるIR優良企業特別賞の所属会社初受賞に貢献。ユーザベース在籍時は業界・企業情報サービス・SPEEDAの業界レポート作成や、経済ニュースアプリ・NewsPicksの経済コメント活動に勤め、最古参ユーザーとして8万人以上のフォロワーを得る。現職では企業取材活動をもとに年間200本以上のアナリストレポートを発行。日経ヴェリタスのアナリストランキング、トムソン・ロイターのアナリスト・アワード・ジャパンにランクイン。

著書に『アナリストが教える リサーチの教科書 自分でできる情報収集・分析の基本』(ダイヤモンド社)がある。主なTV 出演歴はBS ジャパン『日経モーニングプラス』など。日本経済新聞や日経ヴェリタスなどでのコメント掲載多数。