第25回 学業成就の鉛筆

大宮エリーのなんでコレ買ったぁ?! リターンズ

大宮エリー

 これ、あの時代は、使うのが恥ずかしかった。受験生の時、やたらいただくこの太宰府天満宮の学業成就の鉛筆。でもいいこと書いてあるなあとは思っていた。ただ、この鉛筆を実際使って勉強した人がどれくらいいるのだろうか。

 絶対合格っていうハチマキをして勉強している人は使うかもしれないけど、多くの人は、”日日の努力” なんて鉛筆使いたくないだろう。だってあの頃っていうのは、いかに、勉強してないかを醸し出しつつ、実は勉強しているというのがかっこいいとされていたと思う。美学といいましょうか。私は、勉強が苦手で、要領も悪く、そして、自分に甘かったので、みんなの「ぜんぜんやってないよー」「やばいよー遊んじゃったー」を真にうけて、なんだ、みんなそうなんだな、と自分も遊んでバカを見た、アホな学生であった。

 神頼みはしたけれど、この鉛筆を使うことはなかった。お守りのように持っていた学業成就鉛筆。結局、大学受験に失敗し、浪人決定。なんかふと、この鉛筆を使ってみたくなった。予備校に行かなかったので、誰に見られることもなく使い放題なのもあるが、なぜ使いたくなったのか。たぶん、浪人して予備校に通わなかったので、孤独だったから、鉛筆に書かれた一言一言に、やけに、しんみりしたりしたんだと思う。「人に頼るな、自分でなせば叶う」とか、「自信は努力から」とか。うんうん、と。人に会わなかったから、鉛筆が仲間だった。

 自宅浪人は他の受験生が周りにいない。だからなんだか緊迫感もないし、浪人生であるリアリティーもない。なんで、ひとりだけ勉強してるんだ? とぽかんとするわけである。常にあるのは、不安。また、浪人するんじゃないか、とか、永遠に大学生になれないのではないか、とか。そんなとき、この鉛筆を眺めたりした。

といっても私のことである。使ったのは最初のうちだけ。そのうち削るのがめんどくさくて、気づけばシャーペンになっていた。まあ、学業成就って書いてあるし、それを、捨てるわけにもいかず、机の引き出しの奥底へしまうのもなんだか縁起が悪い気がして、ペン立てに挿しておいた。

 そんな曰くつきの、太宰府天満宮の鉛筆。大人になり、最近、仕事から仕事への移動中に、品川の駅だったか、よく構内で物産展をやっている。東北とか。その日は九州だった。ふらっと見たら、なんとそこで売っていたのだ! 物産展なのに、鉛筆。饅頭と明太子せんべいの間に、太宰府天満宮の鉛筆。いいの?これ、食べれないよ? ご利益ある気高いものと思って、捨てれないし敬遠していたけれど、これもひとつのお土産だったのか。そこで、一気に自分にとってのノスタルジーなアイテムになったわけである。

どこかで、フィリックスという名前の昔流行った、猫のキャラクターのかんぺんを見つけて狂喜するような。で、買っちまった。受験でもないのに。友達に受験生もいないのに。あーあ。やはり、使わないものを買うというところに、ノスタルジーがあるんだろうか。もしくは、今一度、自分に喝をいれたいのか。きっとそうかもしれない。鉛筆にはこう書いてあった。「一歩一歩進め!」ラジャ!

 

【告知:このコラムがいよいよ本に! イベントもやります!!】

「日経MJ」での連載開始から2年と4か月。1月29日、「大宮エリーのなんでコレ買ったぁ?!」がついに単行本になりました。連載、そして単行本化の裏話もがっつり加筆。脱力系ゆるゆるエッセイで2019年をエンジョイしよう!

2月6日(水)~2月11日(月祝)
「なんでコレ買ったぁ?!」展 GALLERY X BY PARCO
コラムでとりあげた『なんでコレ買ったぁ?!』アイテムを、実際に展示します! 「なんでコレ買ったんだろう……」の思いをみんなで感じてみよう。日替わりゲストによるトークイベントもあり
くわしくはコチラ

2月14日(木)19時~
紀伊國屋書店新宿本店 トーク&サイン会
くわしくはコチラ

2月18日(月)19時~
紀伊國屋書店グランフロント大阪店 トーク&サイン会
くわしくはコチラ

 

撮影:諸井純二

大宮エリー おおみや えりー/Ellie Omiya
作家、演出家、画家、ラジオパーソナリティー、脚本家、CMディレクターなどボーダレスに活動。

主な著書は、『生きるコント』(文春文庫)、『なんとか生きてますッ 』(新潮文庫)、『なんでこうなるのッ?! 』(毎日新聞出版)。コンプレックスが解消する短編集『猫のマルモ』(小学館)、『思いを伝えるということ』(文春文庫)、心の洗濯ができる写真集『見えないものが教えてくれたこと』(毎日新聞出版)など。
現在、「朝日中高生新聞」「シティリビング」にて連載を担当。
2012年よりPARCOミュージアムにて「思いを伝えるということ展」という体験型のインスタレーションを発表、アート活動をスタートさせる。
近年では画家としても活動。昨年は十和田市現代美術館にて美術館での初の個展「シンシアリー・ユアーズ」を開催。
2017年は福井県 金津創作の森にて個展を開催。愛媛県の芸術祭、道後オンセナート2018、六甲ミーツアート2018に参加。

関連記事

もっと見る