「資本コスト」を理解する

初心者でもわかるコーポレート・ファイナンス入門(第3回)

いちよし経済研究所シニアアナリスト 高辻成彦氏

 企業価値評価やファイナンスへの関心の高まりを背景に、この分野について解説した多くの書籍が刊行されています。しかしいざ初心者が読むとハードルが高く、理解しにくいものが多いのが現状です。

 企業の経営企画担当者や、大学・ビジネススクールで学ぶ学生などへ向けて、初心者にもわかりやすくまとめた『アナリスト直伝 使えるファイナンス入門』の著者 高辻成彦氏に、コーポレートファイナンスの基本について、連載で語っていただきます。

 第1回2回に続く第3回は、資本コストについてです。

資本コストは企業の資金調達に伴うコスト

 資本コストとは、「企業の資金調達に伴うコスト」のことです。企業が資金調達をする際には、株式による調達(株主資本コスト)と、借り入れによる調達(負債コスト)の2通りのコストがかかります。

 株主資本コストは、株主が要求する収益率(期待収益率)です。会社側からすれば、株主に対して行う配当や、利益を上げて株価が上昇することで株主に還元するキャピタルゲイン(株式の値上がり益)といったコストが発生します。
 負債コストは、債権者の要求する収益率(期待収益率)です。いわゆる貸したお金の利子です。

 資本コストとは資金調達する側の言い方、期待収益率とは投資する側の言い方であり、資本コスト=期待収益率、という構図が成立することが分かります。

WACCは2つのコストの加重平均

 資本コストは、株主資本コストと負債コストを加重平均して求めることから、「加重平均資本コスト(WACC, Weighted Average Cost of Capital)」とも呼ばれます。WACC (ワックと読みます)は、次の計算式から成っています。

 WACC = RE × (E/(E+D))+RD(1-t)×(D/(E+D))
 RE:株主資本コスト
 RD:負債コスト
 E:株主資本
 D:有利子負債
 t:実行税率

 割引率とは、「将来価値を現在価値に換算する際に使う利率のこと」ですが、資本コストは、割引率を具体化したものと言えます。WACCは、企業価値評価の代表例であるDCF法で計算する際、割引率の計算で使いますので、非常に重要な公式です。

株主資本コストはCAPMで計算

 株主資本コストは、調達する企業側からすると「株式から調達するコスト」ですが、投資する側からすると、「株主が要求する収益率(期待収益率)」です。実務では、CAPM(キャップエムと読みます)の式の計算から求めます。具体的には、以下の式からなっています。

 CAPM
 RE=rf+(RM-rf
 rf…リスクフリーレート
 RM …株式市場全体の期待収益率
 β…個別銘柄のベータ値

 WACCとCAPMは、コーポレートファイナンスにおいては非常に重要なものです。初めて目にする方はぜひ、知っておいていただきたいと思います。

実務では企業固有のリスクが加わる

 なお、実務では、株主資本コストを計算する場合、先ほどのCAPMの式に企業固有のリスクが加味されます。理由は、株式流動性の低い企業の場合、売買可能な時期や数量に制約を受けるため売買することに対してコストがかかるからです。中小型株は大型株に比べると売買するには流動性が低く、コストがかかります。また、非上場企業の場合は上場していませんので、さらに流動性が低くなります。

 筆者はこの度、『アナリスト直伝 伝えるファイナンス入門』(日本経済新聞出版社)を出版しました。この本では、ファイナンスの基礎について、できるだけ端的に平易な表現でまとめています。ぜひ、ご一読いただければ幸いです。

 

高辻 成彦(たかつじ なるひこ)略歴
いちよし経済研究所(東証1部・いちよし証券の調査部門)のシニアアナリスト。


立命館大学政策科学部卒、早稲田大学ファイナンスMBA。主な職歴は経済産業省、ナブテスコ(東証1部)の広報・IR担当、ユーザベース(東証マザーズ)のシニアアナリスト。経済産業省在籍時は経済波及効果測定のための経済統計である産業連関表の時系列表作成に参画。ナブテスコの広報・IR担当時は日本IR協議会によるIR優良企業特別賞の所属会社初受賞に貢献。ユーザベース在籍時は業界・企業情報サービス・SPEEDAの業界レポート作成や、経済ニュースアプリ・NewsPicksの経済コメント活動に勤め、最古参ユーザーとして8万人以上のフォロワーを得る。現職では企業取材活動をもとに年間200本以上のアナリストレポートを発行。日経ヴェリタスのアナリストランキング、トムソン・ロイターのアナリスト・アワード・ジャパンにランクイン。

著書に『アナリストが教える リサーチの教科書 自分でできる情報収集・分析の基本』(ダイヤモンド社)がある。主なTV 出演歴はBS ジャパン『日経モーニングプラス』など。日本経済新聞や日経ヴェリタスなどでのコメント掲載多数。