「ファイナンスは数式ばかりで難解」という誤解

初心者でもわかるコーポレート・ファイナンス入門(第1回)

いちよし経済研究所シニアアナリスト 高辻成彦氏

 企業価値評価やファイナンスへの関心の高まりを背景に、この分野について解説した多くの書籍が刊行されています。しかしいざ初心者が読むとハードルが高く、理解しにくいものが多いのが現状です。
 企業の経営企画担当者や、大学・ビジネススクールで学ぶ学生などへ向けて、初心者にもわかりやすくまとめた『アナリスト直伝 使えるファイナンス入門』の著者 高辻成彦氏に、コーポレートファイナンスの基本について、連載で語っていただきます。


 はじめまして。アナリストの高辻成彦と申します。本連載では、コーポレートファイナンスの基本をお伝えしていきます。
 第1回は、コーポレートファイナンスの特徴について触れたいと思います(以下、コーポレートファイナンスはファイナンスと省略します)。

ファイナンスは数式が多くて難解?

 「ファイナンスは数式が多くて難解」というイメージがあると思います。確かに数式を使いますし、数式展開もあります。覚えなければならない公式もあります。しかし、実務の世界では、最低限の公式さえ覚えてしまえば、比較的難易度の低いルーティン作業の世界なのです。Excelで計算できてしまうからです。100%把握する、というよりも、ファイナンス理論の基本的な考え方さえ押さえておけば十分なのです。

 しかし、世の中に出回っている解説書には、数式展開を細かく説明していくものが多いようです。数式展開はファイナンスを理解する上では大事なのですが、そればかりだと、拒絶反応が起きやすくなります。無味乾燥な数式展開がファイナンスという世界のハードルを高くしてしまう一因なのでは、と筆者は考えています。

ファイナンスは会計知識が必要な学問

 ファイナンスは、会計知識が必要な学問でもあります。企業の投資を考えるにあたっては、会計の基本的なルールが理解できなければなりません。また、企業価値評価を実施するには、財務分析ができなければなりません。

 したがって、会計知識に不安のある方は、まず財務分析の本を一読されることをお勧めします。理想は、簿記2級レベルの知識を身に付けることです。数式があることに加え、会計知識が必要なことも、ファイナンスを難しいとイメージさせる原因になっています。

ファイナンスはキャッシュを重視する

 ファイナンスと会計を比べますと、会計は「利益」を重視しますが、ファイナンスは「キャッシュ」を重視する、という違いがあります。利益とは、単純に言ってしまえば売上から費用を差し引いたものです。会計上の利益は、会計基準に準拠して計算されるもので、利益が出ているからキャッシュが出ている、とは必ずしも言えません。「黒字倒産」という言葉を聞いたことがあると思いますが、利益が出ていても、当座の資金繰りを充足するだけのキャッシュがなければ、資金繰りに行き詰まって倒産してしまうのです。ファイナンスは、キャッシュフローで価値を計算します。キャッシュフローとは、「企業活動によって生じるお金の流れのこと」です。

ファイナンスには時間的価値の概念がある

 ファイナンスの世界では、1年後の100万円よりも現在の100万円のほうが、価値があると考えます。これを「金銭の時間的価値」と言います。理由は、現在の100万円は金融商品に投資して運用すれば、1年後には元金の100万円に加えて利息を生み出せるからです。現在の100万円は現在価値、1年後の100万円は将来価値として区別します。なお、ここでの説明は、経済がデフレ状況ではないことを前提にしています。

ファイナンスは割引率でリスクを控除する

 ファイナンスの世界では、割引率という言葉が出てきます。これは、先ほどの金利計算と話が繋がります。割引率とは、「将来価値を現在価値に換算する際に使う利率のこと」です。別名でディスカウントレートと言います。先ほどは明確には触れていませんでしたが、金利と呼んでいたものが割引率にあたります。

 ファイナンスの世界では、割引率でリスクを控除します。リスクとは、「将来の不確実性のこと」です。割引率の大きさは、リスクの大きさに応じて決まります。割引率でリスクを控除することで、将来価値を現在価値に換算しているのです。リスクが高ければ、割引率も高くなります。ファイナンスの世界では、リスクを「予想されるリターン(将来価値)のばらつき(不確実性)」とみて数値化するのです。

ファイナンスは使い方が分かれば便利な学問

 ファイナンスは、基本的な公式と使い方さえ分かってしまえば、非常に便利な学問です。決して万能ではありませんし、絶対正しい、というわけでもありませんが、算定して導き出した結果は、投資の意思決定を行う上での判断材料として、重要な参考になることでしょう。ビジネススクールで必須科目として扱われるようになってきている理由は、この便利さにあります。

 筆者はこのたび、『アナリスト直伝 使えるファイナンス入門』を出版しました。この本では、ファイナンスの基礎について、できるだけ端的に平易な表現でまとめています。ぜひ、ご一読頂ければ幸いです。

 

高辻 成彦(たかつじ なるひこ)略歴
いちよし経済研究所(東証1部・いちよし証券の調査部門)のシニアアナリスト。

立命館大学政策科学部卒、早稲田大学ファイナンスMBA。主な職歴は経済産業省、ナブテスコ(東証1部)の広報・IR担当、ユーザベース(東証マザーズ)のシニアアナリスト。経済産業省在籍時は経済波及効果測定のための経済統計である産業連関表の時系列表作成に参画。ナブテスコの広報・IR担当時は日本IR協議会によるIR優良企業特別賞の所属会社初受賞に貢献。ユーザベース在籍時は業界・企業情報サービス・SPEEDAの業界レポート作成や、経済ニュースアプリ・NewsPicksの経済コメント活動に勤め、最古参ユーザーとして8万人以上のフォロワーを得る。現職では企業取材活動をもとに年間200本以上のアナリストレポートを発行。日経ヴェリタスのアナリストランキング、トムソン・ロイターのアナリスト・アワード・ジャパンにランクイン。

著書に『アナリストが教える リサーチの教科書 自分でできる情報収集・分析の基本』(ダイヤモンド社)がある。主なTV 出演歴はBS ジャパン『日経モーニングプラス』など。日本経済新聞や日経ヴェリタスなどでのコメント掲載多数。