「マンション格差」の時代にどう備えるか?

住まいが廃墟になるか、資産になるかは「管理状態」で決まる

さくら事務所代表取締役会長、不動産コンサルタント 長嶋修

「都市部に大量の“廃墟マンション”が登場する」
「都心湾岸や武蔵小杉で量産されたタワーマンションに、強烈な“資産格差”が生じる」
日経プレミアシリーズ 100年マンション』執筆の動機を、こうした予測に基づく危機感からと語る長嶋修氏に、本書のエッセンスを寄稿いただきました。

 2019年夏にはいわゆる「空き家調査」(住宅・土地統計調査・総務省)の結果が公表される見込みですが、この頃には全国の空き家は2013年の820万戸からついに1,000万戸の大台に乗せているはずです。先進国の空き家率は、ドイツが1パーセント程度、イギリスで3パーセント弱、シンガポールは5パーセント程度、国土の広い米国でも11パーセント程度であるのに対し、日本の空き家率は15パーセントを超え、6.6軒に1軒が空き家です。これは先進国の中でもダントツに高い数字です。さらにこのままいけば2033年に空き家の数は2000万戸を超え、空き家率は30パーセントを超えるとのシンクタンクの試算もあります。

 これまで「空き家問題」といえば主に「一戸建て」を指し、2015年に施行された「空家等対策の推進に関する特別措置法」も、主に一戸建ての空き家に対応するためのもの。しかし、今後大きく社会問題化し、しかもその解決が困難を極めることが必至なのは「マンション」の空き家問題です。またマンションといえば主に都市部に位置することから、マンションそのものはもちろん、都市のマンション周辺地域も荒廃する懸念があります。

 現在、我が国に650万戸弱あるマンションのうち、築30年のマンションは現在およそ200万戸。2031年には400万戸を超える見込みです。築年数が経過して建物が老朽化し、住民も高齢化し所得が減る中で、修繕積立金の不足から、所有者で構成するマンション管理組合の運営がおろそかになった結果、建物がボロボロになるといったケースも増えています。それにより空き家率が高まり、売ることも貸すこともできず、資産価値が大きく下がり、無価値あるいはマイナス価値に向かいつつスラム化が進行するといったマンションが今後出現、増加する可能性があります。住民合意の下で建て替えをしようとしても、一部を除いて大半のマンションの建て替えは事実上不可能です。

 ましてや、規制緩和後の1997年以降量産されたタワーマンションは、建設会社によって当時の最新技術を駆使して造られ、高速のエレベータなどは特注品であることも多く、修繕には莫大な費用がかかります。建て替えるといっても、結局は容積率のボーナスを与えて、さらに高いタワーマンションにするしか方法はありません。

 「修繕もできず」「建て替えもできず」「取り壊しもできず」「売ることも貸すこともできず」「価値ゼロもしくはマイナス」といった五重苦にさらされるマンションが大量に生み出される状況を回避するにはどうしたらいいのか。

 『日経プレミアシリーズ 100年マンション』では、日本のマンションが抱えている潜在的なリスクについて、マンション建設の歴史的経緯を振り返りつつ、2031年までにマンションやそれを取り巻く世界がどう変わっていくか予測しています。未来は決まっていませんから、もちろんこれはあくまで筆者の予測ではありますが、細かな違いこそあれ、おおむねこの通りになるものと考えていただいて結構です。

 というのも、人口減少や少子化・高齢化などの人口動態はもちろん、マンションのストック戸数も築年数分布も「すでに決まった未来」としてある程度分かっており、ここに政策や経済動向の現状や未来予測を織り込めばいいだけだからです。このままでは非常に厳しい状況が待っていることをご理解いただけるでしょう。そのうえで、マンションが持つ潜在的な課題をあぶり出し複数の解決策を提示するとともに、マンション管理組合のお手本のような事例をいくつかご紹介します。

 本書執筆にあたって複数のマンション管理組合に取材を試みましたが、どの管理組合も非常に個性的かつアグレッシブでした。「イニシア千住曙町」(足立区)、「白金タワー」(港区)、「パークシティ武蔵小杉ミッドスカイタワー」(川崎市)、「ザ・パークハウス横浜新子安ガーデン」(横浜市)、「ニューロシティ」(日野市)といったマンションは、将来にわたっても資産性を毀損しにくい、もちろん住んでいて快適な状況を関係者の手で創り上げています。他にも本書で取り上げられなかった好事例はいくつもあり、こうしたマンションなら安心して「買い」でしょう。

 ただし自身が所有者になったあとは、管理組合運営の当事者として積極的にコミットしていく必要があります。マンションを廃墟にせず、持続可能性を担保する源泉は、所有者の主体性に他ならないからです。

 

長嶋 修(ながしま おさむ)
さくら事務所代表取締役会長。不動産コンサルタント。
1967年生まれ。広告代理店を経て不動産デベロッパーの支店長・不動産売買業務を経験後、業界初の個人向け不動産コンサルティングを行う消費者エージェント企業、さくら事務所を設立。

関連記事

もっと見る

now loading