女性活躍推進は、まず、夫の意識改革から

育児休業、短時間勤務だけでは不十分

佐藤博樹 中央大学大学院戦略経営研究科(ビジネススクール)教授

DVD 『働き方改革とカップルの子育て ワークライフバランス』 全1巻より

2015年9月4日に、「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」(女性活躍推進法)が公布、同日施行されました。少子高齢化で労働人口が減っていく社会で、もっと女性に働いてもらいたい、そのために働く女性の活躍を後押ししようという法律です。

日本の女性の就業率は、以前に比べて上がっていますが、出産・子育てを機にそれまでの仕事を辞めざるを得ない人もまだまだ多く、女性が働き続けることに対しては、さまざまな課題が残ります。その課題解決のために、女性活躍推進法は、国・地方公共団体、301人以上の従業員を雇用する大企業に、女性の活躍に向けた行動計画の策定を義務付けています(300人以下の中小企業は努力義務)。

しかし、課題解決のためには社内制度の整備だけでは不十分で、既婚者であれば夫の協力が重要なポイントになります。その1つが、女性の負担が重くなりがちな家事・育児です。この点について、日経DVD『働き方改革とカップルの子育て ワークライフバランス』の監修者である中央大学 佐藤博樹教授にお話をうかがいました。

育児休業、短時間勤務は、女性の活躍を推進しない

 出産・子育てをする女性に対して、これまで実施されてきた制度は、仕事と子育てを両立させるための対応策で、女性の育児休業の期間延長や短時間勤務の導入・延長などでした。そして、大企業を中心に手厚い制度が実現されていて、子どもが3歳になるまで育児休業をとれたり、小学校3年生、あるいは6年生までは短時間勤務ができたりする企業が増えています。このような方策は、仕事と子育ての両立を支援するためには大切です。

 しかし、子育てのために長く仕事を休んだり、勤務時間を短くしたりすることは、勤務先での女性の活躍を推進することにはつながりません。短時間勤務を選んで毎日の勤務時間を2時間短縮して働き、勤務時間を8時間から6時間にすると、通常勤務の人の4分の1、仕事の経験時間が減ることになります。

 女性のキャリア形成を踏まえると、できるだけ早くフルタイム勤務に戻る方法を考えることも必要でしょう。それを実現するには、保育サービスの充実やファミリーサポートセンターの活用、実家のサポートなどとともに、夫の協力が欠かせません。

働き方改革は、会社全体で取り組む長時間勤務の是正がカギ

 私が監修したDVD『働き方改革とカップルの子育て ワークライフバランス』の冒頭でも紹介していますが、6歳未満の子どもを持つ夫婦の子育ての現状で、夫が子育てをしない家庭は、共働きの家庭でも専業主婦の家庭でも7割程度というデータがあります(総務省『平成28年社会生活基本調査』)。ほとんどの家庭では、妻だけが家事と子育てを担っている状態です。

 夫婦で一緒に家事や子育てをすることの大切さを、夫は頭ではわかっていると思いますが、長時間勤務という職場の状況や、「子育ては女性がやるもの」という意識が、積極的に子育てに向かわせない原因になっています。

 まず、夫の長時間勤務を、働き方改革で是正する必要があります。たとえば、会議の終了時間を決めておく、その日に行う業務の優先順位を決めて残業をしないなど、集中して仕事に取り組む改善策を実行していくことが大切です。今後、スカイプなどのコミュニケーション・ツールを利用した会議やリモートワークなどの活用が広がれば、もっと個人の事情に合わせた時間の使い方ができるようになるでしょう。

 働き方改革は、会社、管理職、社員が一体となって行い、個人の暮らしを大切にするワークライフバランスを目指すべきです。特に、核家族化が進んだ現代では「ワンオペ育児」という言葉に象徴されるように、家事・子育てを女性ひとりで抱え込むことはたいへんです。カップルで子育てができるような労働環境の整備が急務です。

「子育ては女性がやるもの」という意識が、夫の主体性を奪う

DVD 『働き方改革とカップルの子育て ワークライフバランス』 全1巻より

 次に改革の必要があるのは、夫の意識です。「子育ては女性がやるもの」「男は外で働くのが仕事」という意識は、まだまだ多くの男性に残っているものです。夫は、妻から指示を受けて子育ての手伝いをすることはあっても、自分が子育ての主体であるという認識は持ちにくいものです。

 どうすれば主体的に関われるようになるのか、と考えると、夫も育児休業をとるという選択肢があります。ただ、先のDVDにも出てくるように、育児休業中の目的や家事の分担を決めていないと、あまり有効な手立てにはなりません。夫の育児休業中は、妻からの指示で子育てをするのではなく、夫と子どもが1対1になって向き合う時間を多くとるなど、本人が主体的に子育てに取り組めるような工夫が必要です。

 夫と妻がそれぞれどの程度の家事・子育てを日々こなしているか、を一覧表にして明らかにするという方法もあります。夫は自分ではけっこう手伝っているつもりでも、妻がその何倍もの作業を繰り返していたことがわかると、家事をもっと分担しようと思ってくれるかもしれません(DVDには、子育て・家事分担のチェックシートや見直しシートを付けています)。
※商品ページからダウンロードできます。

子育てを手伝ってほしいのは、保育園の迎え、夕方の時間

 共働き家庭で、長時間勤務の職場で働く夫の場合、朝の送りは夫が担当できても、夕方の保育園の迎えは難しく、妻が常に早く帰って迎えにいかないといけません。働き方改革で夫の残業時間が減れば、夫が夕方の保育園の迎えにいくことができます。もし、夫が週に2日保育園に迎えにいくことができれば、妻は余裕を持って仕事をすることができます。週に1日でも2日でもこういった日があれば、仕事の効率はずい分上がりますし、妻のキャリア形成の一助にもなるでしょう。

 さらに夫が、子どもに夕飯を食べさせてお風呂に入れて寝かしつけるまでを担当してくれれば、妻は仕事帰りに息抜きができます。夫は子どもができたあともそれまでと変わらず飲み会にいくのに、妻は一切出かけられなくなり不満を持つケースが多いようです。月に1~2回でも子育てを代わってあげられれば、妻のストレスも軽減されます。

 専業主婦家庭の場合は、子どもの相手をしながら夕飯をつくり、食べさせてお風呂に入れて寝かせるまでが戦場のよう。特に子どもが2人目、3人目となると、ひとりで2人、3人の面倒を見るのは目が回るほど大変なことです。夫が残業続きで深夜の帰宅が常態化しているようでは、戦力外。夫は、たまには夕方の家事が忙しい時間に合わせて早めに帰り、子どもの世話をすることを心掛けるとよいでしょう。一度、その時間の家事・子育てを夫ひとりでやってもらうと、ワンオペ育児のたいへんさが分かるかもしれません。

妻のキャリアプランに関しては、夫婦で話し合っておく

 家事や子育てに夫婦で取り組むことは、女性のキャリア推進には欠くことができません。夫婦それぞれのキャリアを大切にして、それぞれが目指すことを実現するには、まず、夫が働き方を変える必要があります。

 お互いの働き方に関しては、子どもが生まれるまでに夫婦でよく話し合っておくことが大事です。妻は自分のキャリアをどう考えているのか、きちんと夫に伝えたうえで、どうしたらそれが実現するのかを一緒に考えてみるとよいでしょう。

 そして、管理職や会社も子育てする社員の課題をよく理解し、女性のキャリア推進がスムーズに行われる、働きやすい職場をつくることが重要です。

(構成 生島典子)

プロフィール
佐藤 博樹(さとう ひろき)
中央大学大学院戦略経営研究科(ビジネススクール)教授
1981年一橋大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。雇用職業総合研究所 (現、労働政策研究・研修機構)研究員、法政大学経営学部教授、東京大学社会科学研究所教授を経て2014年10月より現職、2015年東京大学名誉教授。