介護離職を防ぐために知っておきたいこと

介護休業は、「自分が介護をしなくて済む体制」をつくるために使う

佐藤博樹 中央大学大学院戦略経営研究科(ビジネススクール)教授

DVD『仕事と介護の両立のために ワークライフバランス』全1巻より

 高齢になるほど介護が必要な人は増えます。65歳以上75歳未満では、要支援が1.3%、要介護が2.9%ですが、75歳以上85歳未満になると、要支援が6.5%、要介護が12.7%になります(厚生労働省「介護保険事業状況報告(月報)」〈平成30年4月末〉より)。

 団塊の世代が全員75歳を超える2025年には、働き盛りの団塊ジュニアが親の介護をする立場になります。

 介護は誰もが直面する可能性がある問題ですが、自分がその立場になったときに対処の仕方もわからないため、あわててしまい、自分で抱え込んでしまうのが実情です。介護離職で貴重な人材を失わないためにも、従業員に予備知識をもっておいてもらうことに加え、労働環境や社内の体制を整えておくことが大事です。日経DVD『仕事と介護の両立のために ワークライフバランス』の監修者である中央大学 佐藤博樹教授にお話をうかがいました。

介護離職の危機は、突然やってくる

「40代男性会社員・篠崎さんは、ある日離れて暮らす父が骨折をしたとの連絡を受け、病院に駆け付けます。数年前に母を亡くし、父はひとり暮らし。退院後はひとりで暮らすことは難しい状況です。そのため、篠崎さんは、仕事と介護の両立が難しいと判断し、会社を辞める選択をします」

「40代女性会社員・佐山さんは、ある日母が認知症ではないかと思い始めます。母のさまざまな症状を目の当たりにし、認知症の母から目を離すわけにいかなくなり、会社を辞める決断をします」

 この2つのストーリーは、上記DVDで紹介されているものですが、あなたにも起こりうる現実味のあるストーリーです。しかも突然やってきます。
 介護離職は、当人の人生設計を狂わせるだけではなく、会社にとっても働き盛りの人材流出により、大きい損失となります。では、どのように対策を立てたらよいのでしょうか。

ひとりで抱え込まず、会社に相談する

 親がまだ元気なうちは、「介護はひとごと」という感覚かもしれませんが、親の年齢が75歳を過ぎるあたりから介護の問題は確実に出てきます。45歳以上の社員の約13~14%は、介護に携わっています。一定の割合で介護をしている人が存在しているということを認識しましょう。

 会社の人事部の担当者は、「介護休業を申請する人はまだまだ少ない」と言いますが、個人的なことだからと会社に言わずに介護していることを抱え込んでいる社員も少なからずいますし、社員に代わって、妻や家族が介護を担っている家庭もあるでしょう。その場合、社員は何もしないというわけにはいきません。会社に言わずに介護している社員ほど、両立の仕方がわからず、追い詰められて介護離職してしまうケースが多くなります。

 介護で大事なことは、「ひとりで抱え込まない」ということ。親の状態や家族の環境などで、介護の課題はそれぞれ違っています。介護が必要な状況であることを会社に説明して、相談しましょう。

介護休業をとってするべきことは、「自分が介護をしなくて済む体制」をつくること

 社員が介護をしていることに会社が気づいたとしても、どういう支援をしたらよいのかがわからない、という上司や人事担当者もいます。
 実は、介護と仕事の両立の仕方は、仕事と子育ての両立とは違います。したがって、支援の仕方も異なります。
 子育ては、社員自身が積極的に直接携わることが基本になりますが、介護の場合はいつまで続くかわからないので、社員が介護に専念するような支援ではなく、社員本人が介護を担わずに済むよう支援することが大事です。

 介護が必要になったときにとる介護休業は、「自分で介護をするための休業期間」ではありません。介護休業中にするべきことは、自分が直接介護をしなくてもよい体制をつくることです。
 介護は、平均でも4~5年かかりますし、10年以上介護をしている人もいます。現在の育児・介護休業法では、介護休業は法定で93日間まで。社員の現状に合わせて、介護休業の期間を延長している会社もあるようですが、いくら延ばしても足りなくなります。仕事を続けるためには、介護保険制度などを使って介護の体制を築くことが先決です。

介護保険の活用の仕方を知る。まずは認定の申請から

DVD『仕事と介護の両立のために ワークライフバランス』全1巻より

 親の介護が必要になったときに、頼れるものとしてまず考えられるのが介護保険です。しかし、介護保険制度について、知識がないという人が多く、40代の会社員の3割程度は、「40歳から介護保険料を負担していることを知らない」と言います。知らないうちに給与から差し引かれ、明細を見ていない人が多いようです。

 最初にするべきことは、「介護保険の認定を受ける」ことです。介護保険の申請窓口は、地域包括支援センターにあります。地域包括支援センターは、だいたい中学校区に1つくらいあります(自治体によって呼び名が違うことがあるので注意が必要)。
 市区町村の役所・役場の窓口でも申請の手続きはできますが、地域包括支援センターでは、申請だけでなく様々な専門家が介護に関して相談に乗ってくれます。多くは在宅介護から始まりますから、まずはケアマネジャーを探して、要介護・要支援の程度に合ったケアプランを立ててもらうことになります。

 介護保険のサービスを使って介護をするということに抵抗感がある人もいて、「親の介護は自分の手でしないと手抜きになってしまう」などと考える人もおられると思います。しかし、介護保険だけですべてがまかなえるわけではありません。もちろん、週末や夜間など、仕事時間外では社員本人が介護に携わることもあるでしょう。

 親の介護で子どもが担うことは、質の高い介護サービスを親が受けることができるように介護をマネジメントすること、親への精神的な支援です。このことを心得ておいてください。介護は自分中心で実行するのではなく、仕事と介護の両立のマネジメントに徹して仕事を続けるという姿勢が大事です。働き盛りの40~50代で離職せずに済むように、知恵を絞りましょう。

介護休業をとりやすい雰囲気と、長時間労働是正の働き方改革

 もうひとつ大事なことは、管理職が部下にどう接するか、ということです。介護や家族の話を切り出せるような雰囲気、人間関係をつくる。介護休業をとりやすい雰囲気をつくり、働き方改革を行い、長時間労働を改善するなどの努力が必要です。

 在宅介護では、毎月1回1時間程度、ケアマネジャーとの面談が必要になります。このためには介護休暇が利用できます。親が介護施設に入っている場合でも、急に呼び出しがあることもあります。そんなときに、職場が休みにくい、定時では帰りにくい雰囲気では、なかなか言い出せずに困ってしまいます。

 誰にでも起こり得る問題であるということを前提に、管理職は親身に相談に乗り、本人が仕事を続けられるようにできる限りのサポートを行いましょう。

何もないときから、介護の情報を得ておく

 出産や子育てについては、妊娠がわかってから説明しても間に合います。しかし、介護はいつ起こるかわからないので、事前に知っておく必要があります。ひとつのタイミングとしては、社員が40歳になって介護保険の被保険者になるときです。40歳ではまだまだ現実感がない人もおられるかもしれませんが、そのくらいから知っておいてほしいことです。また、親御さんに介護保険証が届く、65歳の誕生日は、親と介護のことを話し合う機会になります。

 介護は一部の人の問題ではなく、誰にでも関係する問題です。まだ介護の現実感がない人に自分ごととして考えてもらうためには、資料などの文字情報だけでなく、より実感を得られやすい映像が有効です。

 DVDの後半では、冒頭でご紹介した篠崎さん、佐山さんが「介護に直面したときに必要な情報をもっていたら、行動がどう変わるか」を映像で示し、こうすれば両立が可能になる、という道筋を示しています。また、その際、上司がどういう行動をとるべきかも含めて提示しています。介護の課題に直面する前に見てもらい、介護と仕事の両立のたいへんさを実感し、どう対応したらよいかという情報をもっておいてほしいと思います。

(構成 生島典子)

プロフィール
佐藤 博樹(さとう ひろき)
中央大学大学院戦略経営研究科(ビジネススクール)教授
1981年一橋大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。雇用職業総合研究所 (現、労働政策研究・研修機構)研究員、法政大学経営学部教授、東京大学社会科学研究所教授を経て2014年10月より現職、2015年東京大学名誉教授。