謝罪会見を「他人ごと」と思っている企業ほど失敗する(下)

メディア対応は、今や役員の必須スキル

株式会社博報堂 PR戦略局 部長 加藤昌治 シニアPRディレクター 島田圭介 (構成 長山清子)

DVD 『取締役・広報部のための危機管理対応術』第1巻 ネット炎上対応編より

 メディアを通したときに自社が与える印象について無知なあまり、本来であれば受けなくて済む社会的制裁を受けてしまう企業が少なくありません。「『誠実に答えればわかってもらえる』という認識では甘すぎる」と博報堂PR戦略局の加藤昌治氏、島田圭介氏は訴えています。プロの記者たちに対してぶっつけ本番で会見を開くのは、逆に「炎上」を招くことになりかねません。何か問題が起こってからでは遅すぎます。前回の「成否を分ける『世の中尺度』とは?」に続き、日頃から行っておくべきメディア対応トレーニングについて語っていただきました。

Q 日頃から謝罪会見・緊急会見に備えて、広報が準備しておくべき項目があれば教えてください

島田:カメラの前に立つ会見者、そして司会をされる方は見た目も大事です。仮に発言の内容が完璧でも、服装や態度におかしなところがあれば、それだけで簡単に批判の対象になってしまう。服装や身につけるものなどは事前に準備しておくことが可能なので、あらかじめ用意しておくとよいでしょう。基本的には濃紺や黒に近いチャコールグレーのスーツ、白いワイシャツにシンプルな柄のネクタイなど、目立たないものが一番です。足元も写されますから、靴や靴下など細部にも気を配ってください。

加藤:「なくて七癖」と言いますが、足を組んだり、貧乏ゆすりをしたりは印象がよくありません。会見が長時間に及ぶと、無意識に靴を脱いでしまう方もいます。トレーニングをして初めてわかる会見者の癖もある、ということです。

島田:会見の場所は、下記に挙げるような条件が整っていることが大事です。重要なのは、大人数を収容できる十分な広さがあるかどうか、空調設備や音響設備が整っているかどうかです。狭いところで何時間も膝を突き合わせていたり、人が多くてエアコンが効きにくくなっていたりすると、会見者も記者側も不快な気持ちになることも多く、会見者から失言が出やすくなります。会見者の足元が見えないように、会見席の机を、白布などで床まで覆うことも大事なチェックポイントです。

 意外と見逃しがちなのが、会見者と記者の出入り口を分けられるかどうか。たとえば、社長が入ってくる入り口からマイクのある席までが遠いと、席に着く前にまわりを記者たちに囲まれて、その映像だけを切り取って使われてしまうことがあります。こうなると、ちゃんと記者会見を開いているにもかかわらず、立ち話で対応したような印象になってしまいます。

 また自社で事故に関する謝罪会見を開いた場合、背後に「安全第一」というスローガンが貼ってあったりすると、「安全第一と言っておきながら事故を起こしたのか」というように突っ込まれてしまう場合があります。そこは第三者の目でチェックしてもらうとよいでしょう。

DVD 『取締役・広報部のための危機管理対応術』第2巻 マスコミ対応編より

経営者など実際に記者会見に臨まれる方への啓発・教育については、やりにくい部分もあるかもしれませんが、どのようにしたらよいでしょうか?

島田:広報は普段から経営幹部とのコミュニケーションをとっておく必要があります。多少煙たがられても、前回述べた「世の中尺度」、つまり自社の論理ではなく、世間から見たらこういうふうに見える、という第三者の視点をトップの耳に入れておく。そうすることで、いざというときに冷静な判断ができるようになります。

加藤:やはり経営者には優秀な方が多いので、1回でもシミュレーションやトレーニングをしておけば、それだけで相当に会見の勘所を把握されます。広報の方は、できれば役員人事にともなって、新たに役員になられた方や事業部門のトップになられた方を対象に、記者会見の練習を提案されるとよいのではないでしょうか。

Q 会見後に非難を浴びないための、運営・準備のポイントを教えてください。

島田:会見後に非難を浴びるのは、なんといっても「嘘をつく」「真実をかくす」ことです。わからないことはわからないと言っていいし、「至急、調査してお答えします」でかまいません。嘘や隠蔽だけは避けてください。

加藤:どんなに準備をしたつもりでも、急な会見では記者から聞かれた質問のうち、下手をしたら半分ぐらいしか事実を把握できずに会見に臨まなければならないこともあります。その場で答えられないことは、「わからない」「調査中です」と正直に言うしかありません。それを「きっとそうだろう」と推論で話してしまうのがもっともよくない。もしその推論が間違っていたら、自己保身のための嘘やごまかしだと受け止められてしまいます。

 記者やカメラの向こうに誰がいるのか、をきちんと整理しておくことも大事です。実際に、謝罪メッセージを送る相手を間違えてしまうケースがあります。よくあるのが「自社のAという商品をお買い上げのみなさまにお詫びします」という表現。他の商品、BとCは安全だから、そちらのお客さまには謝る必要がないという論理が背後にあるわけです。これはロジックとしては正しいかもしれませんが、消費者としては「もしAを買っていたら、自分も被害者だったかもしれないのに……」と、軽んじられた気分になります。さらには消費者を超えて影響を与えていることもあります。記者、そして報道を見ている生活者の方々のリテラシーは高いです。ふとした一言で、「やっぱり」と思われてしまったら、謝罪会見を開く意味がなくなってしまいます。

島田:とにかく、何も知らずに会見に臨むことほど、リスキーなものはありません。まずは、われわれが監修しているDVD『取締役・広報部のための危機管理対応術』全2巻などもご参考にしていただき、ひととおりのノウハウを身につけておいたほうがよいでしょう。

 会見自体が生中継されることも多く、ちょっとしたミスがSNSで世の中に一気に広まる時代です。トップの会見が世の中に与えるインパクトも、昔とは比べものにならないほど大きくなっています。ぜひ、日頃から危機に備えておいていただきたいと思います。

 

プロフィール
加藤 昌治
株式会社博報堂 PR戦略局 部長
多数の民間企業の新商品発売、新事業開始等のマーケティングPR領域と、M&A、事業統合、社名変更などのコーポレートPR領域の広報企画立案および実施を経験。著書に『考具』(CCCメディアハウス)、『発想法の使い方』(日経文庫)等。

島田 圭介
株式会社博報堂 PR戦略局 シニアPRディレクター
民間企業や官公庁等の広報・PR領域全般におけるコミュニケーション業務の企画立案および実施を担当する他、さまざまな危機発生時の対応コンサルティングやメディアトレーニング等の講師を務める。著書に『「学ぶ、考える、話しあう」討論型世論調査』(ソトコト新書)。

博報堂 PR戦略局 
総合広告会社の中にあるPR部門として国内最大規模の組織で、国内外のネットワークや多様なデータソースを活用し、企業や官公庁が抱える課題について、社会視点からソリューションを見いだしクライアントに提供している。
また、企業の不祥事や商品の不具合など、危機発生時のマスコミ対応などのコミュニケーションナレッジの提供もクライアントの要請に応じて行っている。