謝罪会見を「他人ごと」と思っている企業ほど失敗する(上)

成否を分ける「世の中尺度」とは?

株式会社博報堂 PR戦略局 部長 加藤昌治 シニアPRディレクター 島田圭介 (構成 長山清子)

DVD 『取締役・広報部のための危機管理対応術』第2巻 マスコミ対応編より

 コンプライアンスが重視される現在、何か問題が起きた場合、ネットで炎上する前に手を打つことはもちろん、マスコミ取材や記者会見での迅速な説明が求められます。これは企業だけでなく、教育機関や非営利団体でも同じです。しかも会見での対応がまずければ、ますます火に油を注ぐことになります。組織のイメージを保ったまま、一刻も早い事態の沈静化を図るにはどのような対応が正解なのか。日経DVD『取締役・広報部のための危機管理対応術 』全2巻の監修をしていただいている博報堂PR戦略局の加藤昌治氏、島田圭介氏に2回に分けてお話をうかがいました。

実際に事件が起きるまでは、「他人ごと」と思っている企業・団体も多いかと思います。

島田:言い方は極端かもしれませんが、「他人ごと」と思っている企業ほど、事件が起きたときに失敗するといっていいでしょう。インターネットでの炎上を「放っておけば沈静化するだろう」と軽く見て放置するのは論外です。常にインターネット上のメディア動向をウオッチして炎上の芽を早めに摘むこと、さらにはSNSのユーザーであるであろう、社内の若手社員からの情報や意見にも耳を傾けることなどが求められます。

 テレビや新聞など、マスコミで大きく取り上げられる事件には、それだけの理由があるものです。たとえば会見で謝罪をしたにもかかわらず、その会見での発言をめぐって延々と報道が続くケースがあります。これは世間に「きちんと謝りきっていないんじゃないか」「本当に問題解決できていないんじゃないか」という感情が残っているということ。たとえ違う業種・業界のケースであっても、「うちだったらどう対応するか」という視点で見てほしいと思います。

 また大きな事件があると、報道機関は関連するテーマに敏感になります。たとえば今ならパワハラやセクハラがニュースになりやすいでしょう。これをわれわれは「イシューが変化する」と呼んでいます。イシューが変わったことに気づけない組織は危険です。もし問題が起きたらきちんと対応できるのかどうか、変わりゆくイシューに対応しているかどうか、改めてチェックする必要があるでしょう。

加藤:いざというときに備えて記者会見の準備をするのは、別に法律で義務化されていることではありません。しかし、もはや株主総会対策と同じくらい、力を入れて常に備えるべきレベルのものだと思います。
 たとえばオフィスビルに入居されている企業は、定期的に防災訓練を行いますね。それは法律で決められているからかもしれませんが、やはり訓練していれば、いざというときに慌てずにすみます。

 こういうことは、社長みずから「やろう」とはなかなかおっしゃらないものです。広報、総務、秘書室などが「自分たちの仕事だ」と自覚して着手すべきでしょう。

DVD 『取締役・広報部のための危機管理対応術』第1巻 ネット炎上対応編より

謝罪会見・緊急会見に臨む前に、まず広報がやらなければならないことを教えてください。

島田:これはわれわれがコンサルテーションをするとき、一番大事にしているところですが、最初に意識してほしいのは、「世の中尺度」を持ってもらうことです。

 つまり組織にはその組織ならではの論理や考え方がありますね。それは世間一般とズレていることが多いのです。いわゆる「温度差」があります。ところが組織のほうは、なかなかそれに気づくことができません。

 ですから「世間一般ではそういう言い方は通用しませんよ」とか「普通の人はそんなふうには思わないのでは」というように、一般の人たちがどう思うかという「世の中尺度」を持ってもらうことがスタートです。

 そしてそれを広報だけが持っていても仕方がないので、トップ、取締役、執行役員、そして幹部の方との共通認識にしてもらわなければなりません。「温度差を埋めないまま会見に臨むと、痛い目にあうのは社長ですよ」ということです。

 トップや経営層の意識改革は難しいことです。しかし、そこはたとえ煙たがられても、何度も進言する必要があるでしょう。結果的に、それが組織や会社を守ることに結びつきます。具体的な会見の内容やQ&Aなどの対策を組み立てていくのは、温度差を解消してからの話です。

加藤:たとえば、同じ工場でつくっているA、B、Cという3種類の製品のうち、Aだけに問題が生じたとしましょう。世間の感覚からすれば、「同じ工場でつくっていたのなら、A、B、C全部を回収してほしい」と思う可能性が高いです。ところが企業の論理では、「残りのBとCは違うラインでつくったのだから安全です」と言いたくなる。「世の中尺度」ではなく「自社の尺度」で押し通すと、「消費者の安全よりも自社の利益を優先する企業」というマイナスイメージが生じてしまう。そこは広報が客観的な視点を持って、「自社の尺度」と戦う必要があります。

 またトップや経営陣の意識改革も難しいことですが、それぞれの部門間の意思統一にも、おそらく苦労すると思います。なぜなら、各部門は自分たちの仕事が優先事項だからです。

 食品に異物が混入する事件が起きたとします。こんなとき営業部門は出荷再開を急ぎたがることが多い。営業部門の目標は売上や利益と連動しているからです。他の部門も同様に、それぞれの「主張」があります。危機事態の発生時には各部門の利害関係は相反することが多いのですが、自社のレピュテーションを長い目で見てもらうよう説得する必要があります。

「来月の売上はどうなる」というような短いスパンではなく、会社のブランドが毀損されれば、それが回復するまでには何年もかかるということを認識してもらってください。世の中というのは、不祥事があった組織のことを想像以上に忘れないものです。

 

プロフィール
加藤 昌治
株式会社博報堂 PR戦略局 部長
多数の民間企業の新商品発売、新事業開始等のマーケティングPR領域と、M&A、事業統合、社名変更などのコーポレートPR領域の広報企画立案および実施を経験。著書に『考具』(CCCメディアハウス)、『発想法の使い方』(日経文庫)等。

島田 圭介
株式会社博報堂 PR戦略局 シニアPRディレクター
民間企業や官公庁等の広報・PR領域全般におけるコミュニケーション業務の企画立案および実施を担当する他、さまざまな危機発生時の対応コンサルティングやメディアトレーニング等の講師を務める。著書に『「学ぶ、考える、話しあう」討論型世論調査』(ソトコト新書)。

博報堂 PR戦略局 
総合広告会社の中にあるPR部門として国内最大規模の組織で、国内外のネットワークや多様なデータソースを活用し、企業や官公庁が抱える課題について、社会視点からソリューションを見いだしクライアントに提供している。
また、企業の不祥事や商品の不具合など、危機発生時のマスコミ対応などのコミュニケーションナレッジの提供もクライアントの要請に応じて行っている。