本を売る仕事は楽しい。

ビジブン編集長 書店員さんに会いに行く

三省堂書店神保町本店主任 新井見枝香(あらい・みえか)さん

 出版不況が叫ばれる中、書店員さんは日々どんな仕事をしているんだろう? とりあえず現場に行ってみようと思い立った日経ビジネス人文庫編集長 桜井保幸が、カリスマ書店員と呼ばれる、三省堂書店神保町本店主任 新井見枝香さんに突撃インタビューしました。

「本というモノ」が売れる高揚感

新井さん:この店のケーキおいしいんです。「スタイルズケイクス」のケーキ。三省堂書店神保町本店近くのお店ではすぐ売り切れてしまって、なかなか買えませんが、このカフェだとまず頼むことができます。タルトがおいしいんですよ。オリジナルブレンドコーヒーとバナナクリームタルトをお願いします。

 ——私はアイスコーヒーとアップルタルトをお願いします。
 さっそくですが、本題に入ります。先日東京・神楽坂の書店「モノガタリ」で行われたトークイベントでもお話されていましたが、新井さんは書店員の仕事がとても楽しいとのこと。書店員の仕事は何が面白いのですか?

 1つは単純に本というモノを売ることの面白さです。先日もカゴ2杯分の本を買ってくださったお客様がいました。合計額は6万円以上です。ジャンルはバラバラ。こんなに本は売れるんだ、という高揚感を得ることできました。
 もう1つは、お客様がその本を買った事情を想像するのが面白いです。えっ!この人がこんな難しそうな資格試験を受けようとしているんだとか、一見した限りではわからない人の一面を知ることができます。   
 でも、レジの仕事をいやがる書店員もいます。

 ——それはどうしてですか?

 まずお客様は次から次へとやって来ます。そして店員がよく知らないことも含めて、いろんなことを尋ねてきますが、お客様には決して間違ったご案内をしてはいけません。体力的にもきつい仕事です。ずっと立ったまましゃべり続けなくてはならず、喉はカラカラになります。
 「合計○点で、お会計は○○円でございます。ポイントカードはお持ちですか。カバーはお掛けしますか。ありがとうございました。またどうぞお越しくださいませ」
 最低でもこれだけあります。

 ——いつも書店で本を買っていても、そんなに大変だとは気づきませんでした。

 私はこうした最低限の会話以外にも、お客様を見て話しかけるようにしています。なにか尋ねたいことがありそうな人は、雰囲気でわかりますよ。

 ——書店の接客サービスというのは基本「待ち」だと思いますが、お客様にもっと話しかけたほうがいいと思います。お年寄りなどは店員と話をしたくてやってくる人もいるでしょう。特に趣味のような話題は誰しも話をしたいはず。
 お客様とのコミュニケーション重視は、書店サービスの新たなフロンティアになるかもしれません。蔦屋書店のようにあるジャンルに詳しいコンシェルジュ役の書店員を置く書店も出てきていますが、三省堂書店はいかがですか?

 レジにお客様が大行列している状態で、コンシェルジュ専任の店員を設けるのは、現状難しいです。どこの書店も人数が減っていて、売り場を巡回している店員はいなくなりました。毎日たくさんの納品があって、血眼になって働いているのですが、お客様から見れば話しかけにくい空気を出してしまっているのかもしれません。

 ——三省堂書店ぐらいの規模の書店だと、店員はどんな仕事もこなせないとだめですか? 

 店員にはビジネス、文芸、実用、文庫・新書などジャンルの担当がありますが、お客様はそんなことは知りません。店員はどんな質問にも答えなくてはなりませんが、店員のスキルはまちまちですし、余裕がなくて、じっくり教育する時間もありません。

文庫本はもっと売れる

 ——ネガティブな話になってしまいそうなので(笑)、方向を変えます。新井さんは「本というのは、世間の人が考えているよりも売れている。とりわけ、文庫本は安価なのでどんどん売れます」とおっしゃっていて、出版社の人間としては勇気づけられます。これはどういうことですか?

 去年までは単行本を担当していたのですが、単行本を売るのと同じテンションで文庫本を売れば、必ず結果が出るはずと考えていました。今年から文庫担当になりまして、実際、当店での大手版元の文庫の売上の前年比はだいたい全国平均を超えています。本当に文庫はやり方次第で伸びます。

 ——文庫を買うお客様にとって、価格はどれだけ重要だと思いますか?

 面白そうと思って本を手に取り、そこで買うかどうかを決めてしまい、値段を見ていない人が多いようです。

 ——文庫本を買うお客様ってどんな人ですか?

 文庫を買う人は「常に文庫を買う」と決めている感じがします。単行本を買う人は、わりと両方買っているようです。 

 ——「単行本と同じテンションで文庫を売る」とのことですが、具体的にどんな取り組みをしていますか?

 単行本と違って、文庫はレーベル毎に毎月同じ発売日に大量の新刊が出ます。例えば角川文庫なら毎月30点ほどの新刊が納品され、店頭にある前月分と入れ替えます。大変な作業なので、どうしてもルーティーンになりがちです。また、続編やシリーズの巻数を重ねていくと、前回よりは売れないだろうと発注数を減らしていく傾向にあります。返品のことを考えれば、10冊入れて10冊売り切ったほうが成績は良いですからね。でも、発注を増やすべき時をきちんと見極めれば、新刊と一緒に既刊を売り伸ばすことができます。文庫の場合はとりわけ、何年も前に出た本が新刊より売れることがしばしばあります。
 ある著者の新刊が出たら、既刊書を必ず併売するとか、単行本棚でやっている基本動作を文庫棚で行うだけでも成果が出ると思います。

 ——神保町本店に来るお客様というのはどんなタイプですか?

 本のことを本当によく知っているお客様が多いです。講談社学術文庫の発売日をご存知で、その日に買いに来る方もいます。こういうお客様を大切にしなければなりません。初版部数が少なくて、価格も高いけれど、他の小さな書店では手に入らないので、皆さん神保町に足を運んでくださるのです。

 ——とくにどんなジャンルの本が売れますか?

 一言では言えないですね。他店で売れているものとはかなり違います。ここで働いていると、神保町本店だけで売れそうな本というのが、だんだんわかってきます。駅ナカ書店で売れる本が、うちの店で売れるかどうかは別ですね。
日経ビジネス人文庫では、3月刊の『大人の語彙力 敬語トレーニング100』がいい感じです。

 

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