「勉強してきたことが役に立たない!?」 東大生が悩むキャリアの行方

転職時代のキャリア形成論<第1回>

コンコードエグゼクティブグループ代表取締役社長CEO 渡辺秀和氏

 「人生100年時代」という言葉を聞く機会が増え、働き方も大きく変わってきました。ここ数年、転職市場も活発になっています。株式会社コンコードエグゼクティブグループ代表取締役社長の渡辺秀和氏は、創業当時から「キャリア設計次第で、好きなことを通じて、社会にインパクトを与え、恵まれた収入も得るという生き方を実現できる」と考え、1000人を超えるビジネスリーダーのキャリアチェンジを支援してきました。

 2017年、東京大学で開講されたキャリアデザインの授業で、著書『未来をつくるキャリアの授業』が教科書として選定された渡辺氏に、上手にキャリアを重ねるためのコツや、人材市場の実情について連載で語っていただきます。

————新年度が始まり数ヶ月が経ち、新しい環境にもなれてきた時期なのではないかと思います。転職市場は、最近大きく拡大しているようですが、何か特長的な動きはありますか?

 ここ数年、20代の方からのご相談がすごい勢いで増えています。2016年度の弊社への登録は、20代の方の登録が30パーセント程度にとどまっていました。仕事の経験をある程度積んだ、30代以上の方の登録が多かったのです。しかし、2017年度には20代の割合が45~46%にまで増えてきています。

————驚きですね。それは、何か理由があるのでしょうか。

 20代の相談者の増加理由は大きく2つあると思います。ひとつは、納得のいくキャリア設計や企業研究ができないまま就職活動を終えてしまって、入社後に不満が出て転職するというものです。ここ数年、大手企業の採用解禁時期が後ろ倒しとなり、学生が十分に検討する時間的余裕がなくなっていることも大きく影響しているでしょう。

 もうひとつは、採用側の問題です。人手不足の解消を急ぐあまり、学生に“刺さりそうな”仕事内容ばかりを強調して、会社を過剰に良く見せて採用してしまっている場合があるのです。入社後の実態とのギャップに失望して、転職を考える方も増えています。

————渡辺さんは、昨年秋に東京大学で「キャリア・マーケットデザイン」(通称:未来をつくるキャリアの授業)という講義を担当されましたが、東大生でも就職活動で悩んだりするのでしょうか?

 東大生が悩んでいることは大きく2つありました。

 まずは、一部の企業がいまだに「大学バッジ」を集めようとしていることについてです。東大生何人採用、一橋大生何人採用、と大学名でとにかく人を集めようとしている会社があるのです。

 これが、東大生からすると「全く自分を見てもらってないな」と強く感じるようです。正直なところ、就活では学生がどんなに調べても、その会社が自分にフィットするのかは分からない部分が多い。だからこそ、企業側にもきちんと人物を見て、仕事内容や社風とのフィットを確認して選んでほしいと学生側は思っているのです。

 東大生は内定をある程度は取れると分かっているので、「フェアに自分の価値観や特性と合っているのかを見てほしい」と感じています。一方で、一部の企業は「東大バッチ」を集めることに主眼をおいて選考をしている。ここに大きなギャップがあるのです。

 数値目標を達成するためには、会社を実態以上によく見せていたり、志向や社風とのフィットなどに目をつぶって採用していることもあります。多くの学生が企業に対して不信感を持つのも無理はありません。

————それは「東大生ならでは」の悩みですね。普通は「とにかく内定が欲しい」と思っている学生が多いですからね。

 彼らは受験勉強でずっとトップを走り、勉強や知識に関しての自信があります。とても良いことです。ところが、ビジネス界では勉強だけができれば良いわけではない。今度は人間関係の構築、コミュニケーション能力など、今まで全くなかった「評価項目」が重視されてくることを彼らも理解しています。この違いに対する不安感を持っている東大生が少なくありません。

 特に文系の学生は就職活動でOB・OG訪問する中でも「学校で勉強してきたことは役に立たないよ」と散々聞かされます。今まで自分が全力を尽くして頑張ってきた勉強や知識は、大学に研究者として残る際にはいきるが、どうやらビジネス界に出るとあまり役に立たないらしい。それでは自分の積み上げてきたこの努力は何だったの?と、がっかりしてしまいますよね。その気持ちはとてもよく分かります。

————でも、それってなんだか報われないですよね。

 東大生が勉強を通じて培ってきた知的タフネスなどは、社会に出ても大いに役立ちます。ビジネスは困難な問題解決の連続です。新しい知識を吸収し、頭を回転させ続けて、粘り強く最後までやり切れる人材は、企業にとってとても頼り甲斐がある存在です。

 しかし、多くの社会人が学校で学んだ勉強の内容はあまり役に立たないと感じている状況は、非常に残念なことです。本来は、学校で学ぶことと、実社会で求められることにギャップが大きいこと自体がおかしいはずです。これは学生や教職員の責任ではなく、日本の教育制度の問題です。

 もちろん「教養」は必要です。しかし、難関大学を突破するレベルまでやり込んで記憶した勉強は、労力に比して有用であったかは疑問が残ります。先ほどの話のように、社会で必要とされるようなリーダーシップ、人間関係を構築する力などに関する教育が不十分なのが実態でしょう。

 また、そもそも、必要となる知識やスキルは、どんな仕事に就くか、さらにはどんな人生にするかという「目的」によって変わります。キャリア教育を通じて、子供たちがもう少し早い段階で「人生設計」を行なうことができれば、自分にとって大切なことに努力を集中し、自分らしい人生をもっと歩みやすくなるでしょう。

(聞き手 編集部 雨宮百子)

 

渡辺秀和(わたなべ・ひでかず)
一橋大学商学部卒業。株式会社三和総合研究所(現:三菱UFJリサーチ&コンサルティング)戦略コンサルティング部門にて、同社最年少でプロジェクトリーダーに昇格し、多数の新規事業支援を手がける。“未来をつくるリーダー”のキャリア支援を通じて豊かな社会を実現したいとの想いから、2008年、株式会社コンコードエグゼクティブグループを設立し、代表取締役社長CEOに就任。マッキンゼーやBCGなどの戦略コンサルタント、投資銀行・ファンド、外資系エグゼクティブ、起業家などへ1000人を越えるビジネスリーダーのキャリアチェンジを支援。1回「日本ヘッドハンター大賞」のコンサルティング部門で初代MVPを受賞。2017年に東京大学で開講されたキャリア設計の正規科目「未来をつくるキャリアの授業」(全12回)のコースディレクターとして、企画・講義を担当。著書『ビジネスエリートへのキャリア戦略』(ダイヤモンド社刊)、『未来をつくるキャリアの授業』(日本経済新聞出版社刊)は、同授業の教科書に選定される。また、コンコードキャピタルを設立し、ソーシャルスタートアップへの投資や経営支援を積極的に展開している。

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