アンガーマネジメントでパワハラを根絶する

怒らないのではない。伝え方を変えるだけ

ライター 長山清子

「パワーハラスメント」という言葉が生まれたのが2001年。パワハラの害が知られるようになったにもかかわらず、その発生件数はほとんど減っていない。
 パワハラを根本的になくすには、上司がみずからの怒りをコントロールする手法である「アンガーマネジメント」が有効だ。アンガーマネジメントは決して怒りを押し殺すものではない。正しいアンガーマネジメントの知識を身につけて、要求を上手に伝えられるようになろう。

 都道府県労働局等にある総合労働相談コーナーに寄せられる、平成28年のいじめ・嫌がらせの相談は7万件を超え、年々増加傾向にある(厚生労働省調べ)。
 企業では相談窓口の設置、研修等をおこないパワハラ防止に努めていて、一定程度の効果は上がっているものの十分とは言えない。それは「パワハラをすると訴えられますよ」「裁判沙汰になったらあなたも大きな不利益を被りますよ」というような研修にとどまっているからという面もある。
 それよりも、パワハラの根源である「怒りの感情」をコントロールすることで、根本的な解決に近づくことができるのだ。

 怒りの感情と上手につきあうための心理トレーニングが、「アンガーマネジメント」である。これは1970年代にDV(ドメスティック・バイオレンス)の被害者や加害者、犯罪者の矯正プログラムとしてアメリカで生まれ、時代とともに一般化し、現在では企業をはじめ教育現場や中央官庁、地方公共団体、アスリートのメンタルトレーニングにも用いられるようになっている。

 まず知っておきたいのは、アンガーマネジメントは、決して怒りの感情を否定するものではないということだ。アンガーマネジメントという言葉が広まるにつれ、「怒ることは悪」「怒りは押さえつけなければならない」という誤解が広まったが、怒りは自分の身を守るために人間に備わった大事な感情である。職場や学校、家庭において、怒りを感じる出来事が起こるのは当然だ。
 たとえば、職場で上司が部下に怒りを感じるのは、上司の期待する行動を部下がとらなかったときだが、いつも部下が望み通りに動いてくれるとは限らない。そんなとき上司は部下の行動を叱ることになる。

 問題は、そこで怒りをそのままぶつけてしまうことだ。怒りに任せて相手を責める言葉を口にしたり、大きな声を出したりすれば、相手はそのショックでこちらの要求が耳に入らなくなってしまう。またこちらも興奮していると、言いたいことをうまく伝えられない。たとえば「なんで◯◯しなかったんだ」という言葉は、時間を過去に戻せない以上、相手を責めているに過ぎない。部下が事情を説明しようとしても、「言い訳するな!」と怒ってしまえば、部下はどうしていいかわからなくなってしまう。

 よく考えてみれば、怒りが生まれたのは「こうしてほしい」というリクエストが聞き届けられなかったからだ。したがって怒りの感情が湧いたときは、それをそのままぶつけるのではなく、「リクエスト」として表現するとよい。

 たとえば、部下が上司の許可なく取引先に安請け合いをしてしまったようなとき。「なぜ私に報告しなかったんだ!」「どうして勝手な真似をしたんだ!」と怒鳴ったり、詰め寄ったりするのではなく、「もう少し具体的な経緯を説明してほしい」「◯◯の件は私の承認が必要なのだから、報告は上げてもらいたい」というように、「リクエスト」として伝える。そのほうがリクエストを聞き届けられる可能性は格段に高まる。

 また、家庭で子供を叱るときも、「なぜ勉強しないんだ!」ではなく、「1日1時間は勉強すると約束したのだから、約束は守ってほしい」と言ったほうが、こちらの目的が達成されやすくなる。

 しかし、感情が激しているときは、このような冷静な話し方などできない。そこで咄嗟に次のようなテクニックを使って、怒りを鎮める必要がある。

・暗算をする

「100−3=97、97−3=94……」というように、100から順に3ずつ引いていくなど、少し複雑な計算に集中する。

・「止まれ!」と心のなかで唱える

 心のなかで「止まれ!」と唱えて、一切の思考を止める。怒りを感じている人の心のなかでは、「私の了承もなく顧客に返事をするなんて、こいつは私をバカにしているに違いない」といった、出来事への意味づけ・解釈が渦巻いている。これこそが怒りの根源だ。この流れをいったん断ち切ることで、激昂せずにすむ。

・その場を離れる

 どうしても怒りがおさまらないときは、「15分だけ休憩させてほしい。戻ったら続きを話し合おう」と提案し、その場を離れる。

 

 人は怒りすぎても後悔するが、怒らなくても後悔する。「なぜあのときちゃんと言うべきことを言わなかったのだろう」と思った経験は誰にもあるはずだ。アンガーマネジメントは、「怒りが原因による後悔」をなくすものである。ぜひ職場や家庭、学校など、あらゆる場面での問題解決に役立ててほしい。

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