"MBA帰り"が職場でそっぽを向かれるのはなぜか。

「論理を超えた」人を動かすテクニックとは。

編集部(構成:村上敬)

 言っていることは正しい。数字の裏付けもあって、理論武装はばっちりできている。それなのに社内では誰もその人の声に耳を貸さず、むしろ煙たがっている――。
 みなさんの会社にも、〝頭はいいけど、誰もついてきてくれない人〟がいるだろう。言っていることは正しいのに、どうしてまわりの人に認められず、職場で浮いた存在になってしまうのか。その謎を解くカギは、『ダークサイド・スキル』(木村尚敬著)にある。

 仕事を進めるためにはさまざまなスキルが必要だが、同書はそれらを大きく二つに分けている。
 一つは、ロジカル・シンキングや財務・会計知識、プレゼン力、エクセル活用などの「ブライトサイド・スキル」だ。明るいサイドというだけあって、これらのスキルはビジネスの基本。これらのスキルを習得するためにビジネススクールに通う人も多いし、関連本もよく売れている。

ダークサイド・スキルを磨け

 ところが、華々しくMBA留学して帰ってきた〝ブライト君〟が、現場でまったく役に立たなかったというケースは珍しくない。現場を動かすには、もう一つのスキルである「ダークサイド・スキル」が求められるからだ。

 ダークサイド・スキルとは、生身の人間に影響を与えて、ときに意のままに操る泥臭いヒューマンスキルを指す。たとえば100パーセント同意していなくても、「あの人のためなら」と頼みごとを聞くことはあるだろう。また、個人的な信頼関係がなくても、社内政治で協力せざるを得ない場合もある。こうした場面で発揮されているのがダークサイド・スキルだ。

 日の当たる道を歩いて現在までのキャリアを築いてきたブライト君は、義理人情や社内政治を軽視するどころか、不合理なものとして嫌う傾向が強い。

 しかし、昨今の行動経済学が示すように、人間は不合理な生き物だ。理屈として正しくないことでも、感情が動けば自らが損をする選択をすることもある。そうした人間の特性から目を背けて、「正しいのは自分だ」といっても仕事は進まない。頭がよくて弁も立つのにまわりの協力を得られない人は、ダークサイト・スキルが圧倒的に足りていないのだ。

上司は情報の出し方で操れる

 自分のやりたいことを実現するには、ブライトサイドとダークサイド、清濁併せ飲む必要がある。
 では、ダークサイド・スキルとは具体的にどのような技術を指すのか。同書では重要なダークサイド・スキルを7つあげている。その中から、とくに組織で働くサラリーマンが身につけておきたいスキルをいくつか紹介しよう。

 組織で働く場合、何をやるにしても上長の決裁が必要。そこで求められるのは、上司を下から操るスキル。このスキルがないと、ひたすら受け身で仕事をするハメになる。
 上司を動かす武器は「情報」だ。上司と自分を比べると、現場に近いのは自分のほう。上司は部下からの情報がないと決断ができないので、自分に有利な決断をしてもらえるように、報告する情報の内容やタイミングを工夫すればいい。

 たとえば自分の担当事業に頭打ちの兆候が見え始め、大胆なテコ入れを進言すべき状況になったとしよう。寝技を使えないブライト君は、会議でいきなり数字を並べ立て、上司に「こういう理由でテコ入れすべきです」と迫ってしまう。
 しかし、上司はみんなが見ているオープンな場で弱気な判断を下しづらい。「いや、数字が伸びていないのは努力が足りないからだ」と叱られるのがオチだ。

 一方、上司の心理をよくわかっているダーク君は、会議の前にしっかり根回しをする。事前に情報を上げてショックを和らげるだけではない。根回しの段階でテコ入れ策まで提案しておき、会議当日に上司から発表してもらえば、上司に花を持たせることもできる。
 ブライト君は水面下でネゴシエーションすることをズルいと感じるかもしれないが、実際にテコ入れ策を実現できるのは、上司を操るダーク君のほうである。

問われるのは人間力

 このように書くと、「ただの権謀術数ではないか」と考える人もいるかもしれない。たしかに人を籠絡する手練手管はダークサイド・スキルの一つだ。
 ただ、一方で同書は、嫌われることをいとわない態度や、決断から逃げない姿勢をダークサイド・スキルにあげている。人は損得だけで誰についていくのかを決めるわけではない。畏敬の念を抱けるかどうか、問題を先送りせずにリスクを取りに行けるかどうかも重要な判断材料だ。

 ひと言でいうならば、ブライトサイドに現れない人間力すべてがダークサイド・スキルといえる。はたして、自分のダークサイドは人を動かせるレベルにあるのか。一度しっかりチェックしてみよう。

『ダークサイド・スキル』著者からのメッセージ
誰も教えてくれない「裏技」について書いた理由

関連著者・監修者

木村 尚敬(きむら なおのり)

経営共創基盤パートナー
慶應義塾大学経済学部卒。ベンチャー企業経営の後、日本NCR、タワーズペリン、ADLにおいて事業戦略策定や経営管理態勢の構築等の案件に従事。経営共創基盤参画後は製造業を中心に全社経営改革や事業強化など様々なステージにおける戦略策定と実行支援を推進。レスター大学経営大学院修士(MBA)、ランカスター大学経営大学院修士、ハーバードビジネススクールAMP

※本データは、小社での最新刊発行当時に掲載されていたものです。

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