日本人が気づかない 中国人の変化

私たちは、ステレオタイプな「中国人像」に縛られている

中島恵(なかじま・けい)

お金大好き、マナーが悪い、騒がしい―――。

中国人と聞いて、こんな様子が思い浮かんだ人は要注意だ。私たちが気づいていないだけで、中国は確実に成熟している。日経プレミアシリーズ『なぜ中国人は財布を持たないのか』の著者であるフリージャーナリストの中島恵氏が、日本人が持つ変化しない「中国人像」の秘密を探る。

「しゃもじ」を持って、ガイドが先導

「クルーズ船から降りてくる中国人のお客さんの中には、マナーの悪い人が多い。これにどう対処したらいいのでしょうか?」

 先日訪れた、ある地方都市でのことだ。インバウンド関係者が、中国人のマナーの悪さを嘆き、対応策を教えて欲しいと私に質問してきた。守るべきマナーについて、貼り紙やイラストで示しているが、改善されないという。

 そのクルーズ船でやってくる中国人はかなり内陸部からやってきた観光客だ。クルーズ船は破格の安さとビザ不要なのが魅力。短時間の滞在証明書だけで入国でき、大型バスで移動し、嵐のように買い物をして去っていくのだが、行く先々で小さなトラブルが起きているとのことだった。

 そんな話を聞くにつけ、中国について取材している私も深く考えさせられる。確かに、その地方の観光地に行ったとき、「途牛」という中国の旅行会社の名前が書かれた大きな“しゃもじ”を目印代わりに持ったガイドが10数人の中国人客を引き連れて、道路いっぱいに広がって歩いていた。それは、多くの日本人がイメージする通りの「中国人像」そのものだった。こんな姿を毎日見ている地元の人々の「中国人像」が変わるはずはないだろう。

 だが、そうしたステレオタイプな中国人がいまだに存在する一方、中国国内の都市部では、経済成長とともに社会が成熟化、多様化し、「もの静かで、マナーを守る中国人」「向上心旺盛で謙虚な中国人」が猛烈な勢いで増えている。これもまた事実だ。

 中国からの観光客は団体観光客と個人観光客に分けられるが、両者の数は団体4割、個人6割で、個人客が増える傾向にある。日本で注目されているのは、クルーズ船も含め、前述したような団体客ばかりだが、私が取材している個人客は、地方の特色ある美術館や博物館を巡り、日本ならではの食材を用いた料理店でゆっくり食事をする、といった嗜好を持つ洗練された人々だ。

「ステレオタイプ」な人々しか目に入らない

 成熟した中国人は日本文化への造詣が深く、社会のルールを守りながら少人数で行動し、服装もシックで落ち着いている。街の風景に溶け込んでいて、誰にも迷惑をかけることがなく、一見すると「中国人」だと気づかれない。そして、彼らの多くは日本人が「団体客」に向ける冷たい視線に気がつき、悲しんでいる。だから、団体客が行く場所をあえて避けて行動している。

 日本ではこのような「マナーのいい洗練された中国人」はあまり報道されることがないし、一般の人々には気づかれにくい。そして、「迷惑な中国人」の姿だけが日本のマスコミによって繰り返し報じられ、ステレオタイプ化を助長している。そうして刷り込まれた中国人のステレオタイプは、そのイメージ通りの人々ばかりが目に入ることによってさらに強化され、イメージとは違う人々は視野に入らなくなる。

 確かに、私がその地方都市の大通りで見かけた団体客は「騒々しく、声が大きい」人々だったが、そこから目と鼻の先にある大きな博物館にも知的な雰囲気が漂う中国人夫婦がいた。彼らの姿は、団体客とはかけ離れたものだったが、その観光地では目立たない存在だ。もしかしたら、私以外、誰もその夫婦が「中国人」であることに気づかなかったかもしれない。そして、地元の人々の脳裏には、博物館にわざわざ足を運び、じっくり美術品を鑑賞していた夫婦ではなく、お土産だけを買って帰った団体客のことしか記憶に残らない。

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関連著者・監修者

中島 恵(なかじま けい)

ジャーナリスト
1967年山梨県生まれ。90年拓殖大学中国語学科卒業(在学中に北京大学に留学)、日刊工業新聞社に入社。国際部、流通サービス部記者を経て、94~96年香港中文大学に留学し、現在に至る。「ダイヤモンド」「プレジデント」「東洋経済」「中央公論」「日経ビジネスオンライン」などに記事を執筆中。主な著書は、『中国人エリートは日本人をこう見る』(日経プレミアシリーズ)、『中国人の誤解 日本人の誤解』(日経プレミアシリーズ)『中国人エリートは日本をめざす』(中央公論新社) など。

※本データは、小社での最新刊発行当時に掲載されていたものです。

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