人を動かすのは強制力ではなく「魅力」

東福岡高ラグビー部監督が、カルロス・ゴーンに学んだチームの作り方

ライター 長山清子

 「完璧なリーダーなど本当はいない。もし完璧に見えるとすれば、失敗が起こる前にその芽を摘み取っているだけだ」「リーダーは自分の不満や怒りを人に見せないという義務を負っている」……リーダーに求められるものはスポーツチームも会社組織も同じだ。カルロス・ゴーンの語る経営論に学び、チームを3年間で2度の全国制覇に導いた男がいる。ユニークな指導で知られる東福岡高校ラグビー部の藤田雄一郎監督に話を聞いた。

 『カルロス・ゴーンの経営論』は、日産自動車代表取締役会長のカルロス・ゴーン氏がGRLP(「逆風下の変革リーダーシップ養成講座」)という幹部養成プログラムにおいて、参加者からの質問に答えたやりとりをまとめたものである。

 強豪校として知られる東福岡高校ラグビー部の藤田雄一郎監督が本書を手にとったのは、「日産自動車を立て直したカルロス・ゴーンという人に興味を持っていた」から。そしてなんといってもリーダーシップに関するヒントを求めていたからだ。

 「6年前にラグビー部の監督になり、リーダーシップについて模索していたころからビジネス書をよく読むようになりました。人を動かすとか、チームをつくるという課題はスポーツもビジネスも同じですから。特にこの本は4回読み返しました」(藤田監督)
 重要だと思ったところに黄色い線を引き、さらにノートに書き写す。あっという間に本は線でいっぱいになった。いちばん共感をもって読んだのは、リーダーシップについて述べた「リーダーは完璧であるべきなのか?」という章だ。

 この章でゴーン氏は、「リーダーとして周囲から認められるためには、どのようなことが必要でしょうか」という問いに対して、次のように答えている。

 “リーダーであるためには、まず、人々と心を通い合わせる必要があります。人とのつながりのなかで「ああ、この人は興味深い」と魅力を感じさせることが、まず大切です。そしてもう1つ。やはり結果を出せるかどうかにかかってきます”

 この言葉を藤田監督は自分とチームに置き換えて読む。

 「やはり自分がメンバーの一人ひとりと心を通わせて、自分の魅力でチームを率いていかなくてはならない。そのうえで結果を出し続けることが必要だということです」

 その言葉を裏付けるように、東福岡高校ラグビー部は藤田監督の就任後、3年間で2度の全国制覇を果たしている。

 藤田監督の指導法で特徴的なのが、生徒自身に作戦を考えさせるなど、自主性に任せるやり方だ。ラグビーの練習といえば限界まで体をいじめぬく猛練習や鬼のような監督像を想像するが、藤田監督のスタイルはそれとはかけはなれている。ストップウォッチで各メニューの時間を厳密に管理し、練習時間は合計でも1時間を超えることはない。

 「やはり時代とともに指導方法も変わっていかなくてはならない」と藤田監督は語る。

 「スパルタ式は一時的には強くなります。たとえば50位だったのが、13、14位までにはなる。でもベスト4にはいかない。自主性に任せなければ全国では勝てません。仮にスパルタ式で勝ったとしても、それはほかが弱かったからにすぎない」

 なぜ自主性に任せたほうが強くなるかといえば、選手のモチベーションが上がるからだ。モチベーションを強制的に上げることはできない。だから選手たちを信じて待つ。

 「そうはいっても、ときには怒りたくなることもありますよ。でもそこでグッと我慢。待つこと、そして観察することが重要です」

 今年の1月、東福岡高校ラグビー部は全国大会準決勝で、大阪の東海大付属仰星高校に敗れた。藤田監督は再びペンを片手に、『カルロス・ゴーンの経営論』を開いたという。

 「これで通算5回、この本を読み直したことになります。不思議なもので、勝ち続けていたときはあまり気に留めなかった箇所が目に飛び込んでくる。今回もまた新たに線を引いたところがたくさんありました」

 今回、線を引いたのは「レジリエント・リーダーシップ」について述べた箇所。「レジリエント」とは「回復する力がある」という意味だ。

 「日本一になって当然のチームが、勝てなかったのはなぜなのか。敗北から回復するには、自分のリーダーとしての勢いをなくしてはいけないと思う」

 そのためにもリーダーは学び続ける必要がある。

 「ゴーンさんも、モチベーションの源泉は学ぶこと、そして自分の成長を実感することだと言っています。コーチになって14年、監督になって6年。この仕事はあらゆることにアンテナを張っていないとできない。自分自身が学び続けていなければ、人を引っ張っていくことはできないと思っています」

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