カルロス・ゴーンの経営論

グローバル・リーダーシップ講座

公益財団法人 日産財団 監修/太田正孝 編著/池上重輔 編著

イントロダクション 太田正孝・池上重輔

本書の意図・位置づけ

 すべての社会活動が、他者の協力あるいは他者との競争によって成立していることからすれば、リーダーシップは孤島にでも住まない限り、誰にでも関わりある日常的な問題です。他方、ビジネス活動のグローバル化に伴い、リーダーシップは、慣れ親しんだ国内での日常的課題から、グローバルレベルでの戦略的課題へと一気に変化しました。そうしたパラダイムシフトに影響されて、グローバル・リーダーへの関心が高まっていますが、実際にグローバル・リーダーシップを発揮することは簡単ではありません。俗に “Knowing Doing Gap” と呼ばれる状態、すなわち頭では分かっても実行できない状態です。

 特にリーダーおよびグローバル・リーダーに関する理論は諸説あり、それを実践に落とし込むことは困難に見えます。しかし、幸運なことにリーダーシップは実際のリーダー(例えば、カルロス・ゴーン)を通して具体的に学ぶこともできます。リーダーシップにおける理論と実践の融合とは、独自のリーダーシップ論を持つことです。松下幸之助、ジャック・ウェルチ等の例を持ち出すまでもなく、成功したリーダーは自分なりのリーダーシップ論を持っているからです。

 本書は日産自動車ならびにゴーンCEOの実践事例を縦糸に、ペンシルバニア大学(ウオートンスクール)、IMD、早稲田大学によるアカデミック理論を横糸に構成されたGLOBAL ESILIENT EADERSHIP ROGRAM(GRLP:日本名「逆風下の変革リーダーシップ養成講座」)という幹部育成プログラムをベースに構築されています。このプログラムの狙いと同様に、本書はカルロス・ゴーンというグローバル・リーダーの実践における好例を、アカデミックの文脈に照らし合わせることで、理論と実践の橋渡しを行い、読者の皆さんの〝リーダーシップ実践〟を支援することを企図しています。リーダーシップ関連の理論とゴーンのリーダーシップ論を行き来するなかで、読者の皆さんにも独自のリーダーシップ論を形成していただければと思います。ゴーンの言動が絶対的な正解というわけではありません。どんな状況下でも誰にでも当てはまるリーダーシップの絶対的な解はないので、皆さん独自のリーダーシップ論を構築する必要があるのです。

 GRLPは全部で5日間のプログラムです。池上および参加者がゴーンに質問するセッションが半日弱あり、本書はその質疑のエッセンスがまとめられています。ゴーンのライブ事例に関する理論的解説を組み立てていますので、必ずしもリーダーシップ論としては網羅的ではありませんが、皆さんが自分自身のリーダーシップ論を構築するうえで必要最低限のエッセンスはカバーされています。

リーダーとリーダーシップ

 グローバル・リーダーについて語る前に、リーダーおよびリーダーシップについて整理してみます。リーダーもリーダーシップもその定義や理論には諸説があります。本書では便宜上、代表的な定義や考えを紹介していきますが、皆さん独自の定義も構築していただきたいと思います。

 リーダーとは、少し硬めに定義するならば 「人々の集合的営為(collective enterprise)の中枢を掌握して指揮統率し、人々の幸福に貢献しようとする人」であると言われます(片岡、2013)。集合的営為とは〝組織〟を意味します。複数の人が、互いに力を結集し、協力し合って共同で目標を達成し、共通の課題解決を図ろうとする時に集合的営為(組織)は成立します。組織の単位は、遊び仲間、家庭、学校、企業、クラブ、国家等があり、多くの場合そこにはリーダーが存在します。リーダーはフォロワーが存在してはじめて成り立ちます。それ故、リーダーの言動とそれに対するフォロワーの認識との関係でリーダーシップを考える必要があります。ゴーンがどんなに素晴らしいリーダーであったとしても、たった1人では組織におけるリーダーシップは発揮できないからです。

 1つの組織のなかには、様々なレベルのリーダーが存在することがあります。企業であれば部門、事業、プロジェクト等においてリーダーがいるでしょう。CEOなどのトップリーダーは組織全体を束ねるリーダーで、通常は1人です。リチャード・ニクソンは〝大いなるビジョンの下で偉大にして困難なる任務に果敢に挑戦し、歴史を変えるような大きな業績を挙げる人〟を「大リーダー」と呼びました(Nixon, 初版)。このところリーダー不在、リーダーシップの危機等が叫ばれているようですが、組織の個別単位のリーダーにおける問題と、大リーダーであるトップリーダーがいない問題の2つの側面があるのかもしれません。

 リーダー論は、学問の専門的分化に対応して、①政治的リーダー、②軍事的リーダー、③ビジネスリーダー、④社会的リーダー、⑤スポーツリーダー等の分野でそれぞれの発展を遂げています。人間の集団を扱うという点ではこれらのリーダー論に共通の要素も多いのですが、対象とする組織・状況の違いを意識する必要があります。本書では、ビジネスリーダーにフォーカスし、組織内の様々な局面で必要とされるリーダーに必要な要素と、トップリーダーに要求される要素の両方をカバーしています。

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関連著者・監修者

公益財団法人 日産財団(こうえきざいだんほうじんにっさんざいだん)

1974年、財団法人日産科学振興財団として日産自動車により設立。
2011年、公益財団法人への移行を契機に、名称を公益財団法人日産財団に変更。人材育成を活動の軸として社会貢献活動を行っている。

※本データは、小社での最新刊発行当時に掲載されていたものです。

太田 正孝(おおた まさたか)

早稲田大学商学学術院教授。博士(商学)。
早稲田大学商学部卒。同大学院商学研究科博士後期課程単位取得満期退学。同大学院商学研究科長、早稲田大学常任理事、MIT客員研究員、IMD客員教授、英ケンブリッジ大学客員研究員等を歴任。

※本データは、小社での最新刊発行当時に掲載されていたものです。

池上 重輔(いけがみ じゅうすけ)

早稲田大学大学院商学研究科教授。
早稲田大学商学部卒。英ケンブリッジ大学経営大学院経営学修士、英シェフィールド大学大学院国際政治経済学修士ほか。BCG、GEヨーロッパ、ソフトバンク、ニッセイ・キャピタルなどを経て、現職。

※本データは、小社での最新刊発行当時に掲載されていたものです。

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