日経サイエンス

日経サイエンスは米国の科学雑誌「SCIENTIFIC AMERICAN」の日本版です。

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    NEWS SCAN
    神経生物学
    ブログは健康によい?
    生理的な効果を探る研究が進み始めた


     ブログを書く人が増えている理由は,それが一種の“自己療法”だからかもしれない。自分の経験や思考,気持ちについて著述するのが心身の健康維持に有効であることは,昔から科学者に(作家にも)知られていた。
     だが,自己表現的な文章を書くことはストレス解消だけでなく,多くの生理学的な利点を生む。記憶と睡眠が改善し,免疫細胞の活性が高まり,エイズ患者ではウイルス量が減り,外科手術を受けた患者では傷の回復が早まることが明らかになった。Oncologist誌2月号に掲載された研究によると,がん患者が治療前に表現的な著述をした場合,そうした作業をしなかった患者と比べ,心身ともに具合が明らかによくなった。


    辺縁系やウェルニッケ野の活動

     なぜなのか。ブログが爆発的に普及していることもあり,その理由を神経学的に探る研究が進んでいる。ハーバード大学・マサチューセッツ総合病院の神経科学者フラハティー(Alice Flaherty)によると,ブログ流行を「苦痛解消プラセボ(偽薬)仮説」の観点から見ることもできる。人間は社会的な生き物であり,苦痛に関連してさまざまな行動を取る。例えば口に出して苦痛を訴えるが,これは“満足をもたらすプラセボ”として機能するという。ストレス経験についてブログに書くことも,同様の作用があるのかもしれない。
     フラハティーはハイパーグラフィア(執筆衝動を抑えられなくなること)や著述遮断(作家などが心理的要因から執筆できなくなること)などの疾患を研究しており,疾患モデルも参考にして,ブログという情報伝達法を促進している要因の説明を試みている。
     例えば躁病の人は非常に多弁な場合が多い。「脳の辺縁系にある何かがコミュニケーション欲望を高めていると考えられる」とフラハティーはいう。辺縁系は主に中脳に位置し,食物やセックス,食欲,問題解決などに関する私たちの意欲を制御している。「ブログ執筆者の多くは半ば強迫的に執筆しており,ブログにも意欲が関係している」。また,ブログ執筆は音楽やジョギング,美術鑑賞などの刺激と同じく,ドーパミンの放出を引き起こすのかもしれない。
     発話をつかさどる前頭葉と側頭葉も関係している可能性がある(脳には著述専門の中枢はない)。例えば左側頭葉に位置するウェルニッケ野が損傷した人は,発話が過多になるほか,言語理解が失われる。ウェルニッケ失語症の人々は意味不明の言葉をしゃべり,絶え間なくものを書き続ける場合が多い。フラハティーはこうしたことから,ウェルニッケ野の何らかの活動がブログ執筆衝動を育てているのだろうと推測する。


    治療効果のほどは?

     ただし,著述の効用に関する神経生物学的な理解はいまのところ推論の域を出ない。著述活動の前後で脳を撮影した試みからは,活性領域が脳の深くに位置するため,わずかな情報しか得られていない。機能的磁気共鳴画像装置(fMRI)を使った最近の研究で,著述の前後と最中で脳の活動領域が異なることが示されたとテキサス大学オースティン校の心理学者ペネベーカー(James Pennebaker)は指摘する。しかし再現や定量化は難しく,ペネベーカーらはこれら画像の価値を疑問視している。
     おそらく,著述によって一連の神経経路が活性化されるのだと考えられ,複数の研究者がその解明に取り組んでいる。アリゾナ大学の心理学者・神経科学者レーン(Richard Lane)は脳画像技術を使って感情とその表現の神経構造を調べることによって,脳画像技術の有意性を高めたいと考えている。
     Oncologist誌掲載論文の主執筆者であるモーガン(Nancy Morgan)は表現的著述の効果を調べる大規模な臨床試験の実施を考えている。またペネベーカーは表現的著述と睡眠改善といった生物学的変化の関連性を引き続き研究している。睡眠は健康に不可欠であり,「睡眠の視点から研究するのが最も有望だと思う」という。
     背景にある原因はともかく,がんなどの深刻な病気と診断された人々がブログに慰めを求め,実際に慰めを見つける例が増えている。モーガンは「ブログ執筆が表現的著述と同様の利点をもたらすのは間違いない」とみて,がん患者の支援看護に著述プログラムを取り入れたいと考えている。
     治療効果が医療関係者に認識され始めたのにつれ,一部の病院では患者が執筆したブログを病院のウェブサイトに掲載するようになった。ベッド脇の日誌とは異なり,ブログは同じような境遇の読者が理解してくれるという利点があるとモーガンはいう。「個人が互いにつながり,相手の表現に注目する。これはコミュニティー形成の基本だ」。

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    神経科学
    ポカを未然に防ぐ


     誰でも単純作業で思わぬミスをすることがある。しかし,集中力や脳活動の低下だけが間違いの原因ではない。実際,作業に関連する脳領域の活動パターンを利用して,誤った動作をその発生から最大で30秒前に予測できる。ミス発生を未然に防げるかもしれない。
     ノルウェーにあるベルゲン大学の研究者たちは機能的磁気共鳴画像装置(fMRI)を使って退屈な単純作業(コンピューター画面上の矢印の向きを区別する)をしている人の脳をスキャンした。脳でこの処理にあたっているネットワークの活動がミスが起こる前に低下し,本人が間違いに気づくと再び活発になって,もとの活動パターンに戻った。  研究を率いたアイヒェル(Tom Eichele)によると,次は脳波を使って不注意ミスを予測することだ。無線の携帯型脳波計を使えば,より実用的なミス予測装置が可能だろう。米国科学アカデミー紀要4月22日号に掲載。


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